英国貴族の城館 増田彰久 写真・文

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物語や歴史の宝庫

評・栩木伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

河出書房新社 1万5000円
河出書房新社 1万5000円

 映画『高慢と偏見』で地主の娘エリザベスが訪問する大地主ダーシー氏の広壮な館や、人気TVドラマ『ダウントン・アビー』に登場した豪邸を覚えておられるだろうか。

 これらの屋敷はカントリー・ハウスと呼ばれる。16世紀末頃から20世紀初頭にかけて、英国の富裕な領主たちが田園地帯の広大な領地に建造し、客人をもてなした城館である。

 18世紀、英国がヨーロッパの片隅にあるのを自覚していた領主の御曹司たちは、ヨーロッパ大陸の文化を学ぶために「グランドツアー」と呼ばれる長期研修旅行をおこなった。

 その結果、城館のギャラリーにはイタリアやフランスから持ち帰った絵画や彫刻が飾られ、神話的風景画の世界を模倣した風景庭園が造営された。少し後の時代には中国や日本製の陶磁器の収集も流行した。

 他方、改装や増築の結果、城館はさまざまな建築様式が混在する展示場と化した。歴代領主の好みや個性が色濃く反映されたカントリー・ハウスは、豪華な驚きが詰まった空間へと成長したのだ。

 本書は、イングランドとスコットランド各地に点在する42箇所のカントリー・ハウスを撮影した大判の写真集である。著者は建築写真の名匠。約20年間の取材旅行で撮りためた写真が集大成された。撮影地にはシェイクスピアが戯曲『マクベス』の舞台に設定した屋敷、故ダイアナ妃の実家、ウィンストン・チャーチルの生家なども含まれていて、城館は物語や歴史の宝庫だとわかる。

 とはいえ本書の醍醐だいご味は、膨大な情報量を持つ写真そのものの細部の探索にある。写真印刷のクオリティーが極めて高いので、ルーペで拡大しながら見ていくと、肖像画に描かれた人物の表情や、寝椅子のビロード張りや、階段の手すりにまで、歴代の住人たちの残り香が感じられる。厨房ちゅうぼう内を写した写真をためつすがめつしていたら、斜めのを浴びた銅器にフェルメールの絵を思わせる光が宿っているのを見つけた。

 ◇ますだ・あきひさ=1939年、東京都生まれ。写真家。2006年に日本建築学会文化賞受賞。

無断転載禁止
1237308 0 特集 2020/05/24 05:00:00 2020/06/01 13:37:39 増田彰久英国貴族の城館(18日、本社で)=沼田光太郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/05/20200523-OYT8I50042-T.jpg?type=thumbnail

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