[現代×文芸 名著60]生命を感じる<46>災厄からのしぶとい再起…『空にみずうみ』佐伯一麦著
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私小説作家として若き佐伯
もちろん敗北感に打ちひしがれることもある。しかし、敗北からのしぶとい再起の道程にこそ、佐伯一麦の文学の魅力はある。『空にみずうみ』の連作はそんな回復の日々を、東日本大震災後の東北地方を舞台に、みずみずしい文章で描き出す。
中高年の域に達した彼は、持病の
草花、動物、虫など自然の風景に注がれる観察眼は、伝統的な私小説の系譜にもつらなるが、佐伯の個性が本当に出るのは、太陽の側に虹が出る「環水平アーク」なる現象を話題にするあたりの、探究的な視線だろう。
樹木、蛇、ミソ、勉強机と等身大の日常風景を支える事物に生命の力と詩情を見いだしつつ、さらに身を乗り出し、自ら手を動かしながら世界の懐に入ろうとする主人公には、たくましい古代人の風情さえ漂うのである。(阿部公彦・英文学者)