[現代×文芸 名著60]生命を感じる<47>日常脅かす危機 どう抗う…『神の子どもたちはみな踊る』村上春樹著

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※2000年刊、現在は新潮文庫(490円)。
※2000年刊、現在は新潮文庫(490円)。

 村上春樹の『神の子どもたちはみな踊る』は6へんから成る短篇集だ。1995年1月に起きた阪神・淡路大震災、さらに同年3月にオウム真理教の教団によって引き起こされた地下鉄サリン事件の衝撃が、本書の底を流れている。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 「アイロンのある風景」の舞台は、茨城県のある町。順子と三宅さんはき火の時間をともに過ごす仲間だ。海辺で流木を拾って、焚き火をする。ときにはウィスキーを飲みながら。「こうして火を見ていると、わけもなくひっそりとした気持ちになる」と順子は語る。三宅さんは、じつは神戸に家族がいるらしい。東灘区。焚き火が消えたら、どうなるのか。小説を構成するその文章は、過不足のなさという点で比類ない姿を見せている。

 「かえるくん、東京を救う」では、片桐の前に現れたかえるくんが東京の大地震を予言する。それを阻止するため、一緒に地下に潜ってみみずくんと闘うようにと、かえるくんは説得を試みる。「あなたは筋道のとおった、勇気のある方です。東京広しといえども、ともに闘う相手として、あなたくらい信用できる人はいません」。とうとう片桐は計画の実行に加わる約束をする。恐ろしさとユーモアとせつなさが混ざる。現代に生きる者の胸に迫る、特別な1篇だ。

 単行本化の際に書き下ろし作品として収録された「蜂蜜パイ」の淳平は西宮出身だ。地震男、小さな箱。これからのことを思い描く、という終わり方で、連作の最後にふさわしい。

 日常を脅かす出来事や制御不能な力がもたらす危機を、暴力と呼ぶとして、それらにどうあらがい、さまざまなレベルで生じる傷をどう受け止めるのか。この本には生命の根底へ下りていくような深い力がある。

 (蜂飼耳・詩人)

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