[現代×文芸 名著60]生命を感じる<48>変貌遂げる女性たち…『嵐のピクニック』本谷有希子著

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2012年刊、現在は講談社文庫(460円)。
2012年刊、現在は講談社文庫(460円)。

 カーテンの膨らみの後ろに隠れているのは何か。嵐のなか必死に傘にしがみつく男はいつ空高く舞い上がっていくのだろうか。読後しばらくはそんな不安や期待を胸に現実世界と向き合う覚悟が必要だ。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 本作に収録された13編は様々な境遇の男女(と一匹の猿)に語られるが、存在感が際立つのは女性たち。夫のプライドが傷つかないように言葉を選ぶ妻も、試着室に籠もる客に徹夜で対応するセレクトショップの店員も、女性たちは常に他者の心へと想像を巡らす。

 一方、男性たちは目の前にあるものさえ見えていないこともしばしば。「難しいことはあまり分からない」と繰り返し、猿山の外の世界に一切興味を示さないのは動物園の猿だが、他の男たちも自分の世界にどっぷり浸っている。男女の会話はなかなかみ合わない。

 まわりが期待する理想の女性像にあらがうように、孤独な女性たちは様々な形で変貌へんぼうを遂げていく。肉体改造を通して「野獣みたい」な腕とハッピーエンドを手に入れる者もいれば、突然不可解な病を患い悲惨なラストを迎える者もいる。

 バリエーション豊かなこの短編集の最大の魅力は、その奇抜な想像力と国境をも越えるユーモア。収録作品の多くが英語圏で発表された際に「風変わり」「シュール」「コミカル」などと評されたのも不思議はない。だが、描かれている出来事がどんなにぶっ飛んでいても、呼び覚まされる感情はとてもリアルだ。

 劇作家でもある著者は、青春ドラマやビデオゲーム等でお馴染なじみの設定も巧みに小説に取り込む。特にB級映画を想起させる作品は、メディアで反復されてきた女性像に対する批評としてもエッジが効いている。気軽にピクニックに持っていけるような一冊ではない。(辛島デイヴィッド・翻訳家、作家)

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