[現代×文芸 名著60]生命を感じる<49>朝鮮戦争 決死の家族救出…『お父やんとオジさん』伊集院静著

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◎2010年刊、現在は講談社文庫(上下各676円)。
◎2010年刊、現在は講談社文庫(上下各676円)。

 これは著者の父の経験を基に執筆された物語である。今から半世紀以上前、義理の弟である「オジさん」の命を救うため、「お父やん」はたった一人で戦地へ密入国する。日本から故郷である朝鮮半島へ――。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 「ボク」の父と母は在日コリアンで、戦時下の日本で出い、家庭をもった。終戦後、母方の祖父母と叔父は、朝鮮半島にある故郷の村に帰国するが、朝鮮半島は間もなく戦禍にみこまれてしまう。混乱の中で戦闘に巻き込まれた叔父は、命辛々故郷の村へ逃げ帰ったが、今度は村人から密告者として命を狙われる。叔父は、祖父母が庭の鶏小屋の下に掘った狭い穴倉あなぐらの中で、何か月もの間、身を隠すことを余儀なくされる。家族の救出のため、戦闘の続く朝鮮半島へ単身乗り込んだのが「お父やん」、つまり「ボク」の父親だった。

「そこは遠い所なの?」

「そんなに遠くはないけど……、近くて遠い所だわね」

 母は水平線の彼方かなたを眺め、幼い「ボク」に告げる。

 近くて、遠い。知っているようでいて知らない。第二次世界大戦後、朝鮮半島が南北に分かたれ、現在も休戦状態にあることを私たちは知っている。しかし、そのただ中にある人々のおもいや暮らしを果たしてどこまで知っているのだろうか。

 若さと実直さ故に戦争に深く関わってしまう「オジさん」、祖国で偶然出逢った人々の助けを得ながら義弟を救わんとする「お父やん」、そして夫の無事を願って家族を守る「お母やん」を通して、読者は戦争に突入していく朝鮮半島と戦後を生きる日本の人々の姿を身近に見ることになる。どんな不条理な状況下でも、生きるため、家族のため、誰かの家族である人間のため、懸命に生きようとするたくましい命。人の生きようとする姿に国境はない。(澤西祐典・作家)

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