[現代×文芸 名著60]生命を感じる<56>思惑、誤解 田舎町の狂騒劇…『シンセミア』阿部和重著

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◎2003年刊、現在は講談社文庫(上・980円、下・1000円)。
◎2003年刊、現在は講談社文庫(上・980円、下・1000円)。

 1990年代初頭、アメリカのテレビドラマ「ツイン・ピークス」が一世を風靡ふうびした。小さな田舎町で、ある日、17歳の美少女ローラ・パーマーの遺体が発見される。地元警察に加え、FBI捜査官までが調査に乗り出す。物語が進むにつれ、平穏に見えた田舎町の裏の顔が徐々に明らかになり、性道徳の乱れ、違法薬物の氾濫、土地開発を巡る陰謀、オカルト現象などが複雑に絡み合う群像ミステリが立ち上がり、2017年には続編も製作された。

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 阿部和重『シンセミア』も「神町じんまち」という、一見何もない東北の小さな町を舞台にした群像ミステリだ。「神町」は、氏の作品群(サーガ)の舞台であり、本作は『ピストルズ』、『オーガ(ニ)ズム』につながる3部作の第1作にあたる(同氏の芥川賞受賞作「グランド・フィナーレ」は、同サーガのスピンオフ作品でもある)。ただし、架空の町「ツイン・ピークス」と異なり、「神町」は実在する町であり、作者の出身地でもある。作中には「阿部和重」を名乗る人物さえ登場する。

 2000年の夏、とある殺人事件を契機に、神町で不穏な出来事が相次ぐ。不審な事故死、失踪事件、コカイン、盗撮サークル、UFOの目撃談、監禁と拷問、拳銃、大洪水、毒殺未遂、ロケット弾の不発弾……しかし、そのそもそもの発端は戦後間もない米軍の占領期、米軍にパン職人として出入りした「パンの田宮」の暗躍に遡る。「神町」を牛耳るまでになった田宮仁から息子の明、そして孫の代まで巻き込み、総勢50名以上の人物(しかも善人はほとんどいない)が入り乱れ、それぞれの思惑に誤解を重ねる小さな町の狂騒劇は、戦後日本が抱える日米関係や天皇制についての黙示録としても読める巨編。

 (澤西祐典・作家)

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