[現代×文芸 名著60]社会と接する<42>恋敵は植物 青年奮闘…『愛なき世界』三浦しをん著
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告白した相手に「植物の研究に、すべてを
東京は本郷にある洋食店で見習い料理人として働く藤丸は、近所の国立T大学のとある研究室にたびたび出前をするうち、一人の院生に
彼女は、恋愛や結婚、人との生殖にも興味がない。「一台の顕微鏡を二人で同時に
地道な基礎研究の日々を彩る小さな変化や、まれの発見の喜びを、本作はじっくりとらえる。派手な物語を排し、千二百粒の種の採取や、学会発表など、地味エピソードを羅列していく書きぶりは、研究者という生き物の的確な生態観察であるかのようだ。
本村はこう夢想する。「無人の大学を、街を、地球上を、愛を知らぬ植物が緑で席巻していく」。自然が人間のよりよい生活のためのリソースなどではなく、人間も自然の一部と考える彼女の謙虚さには、これからの自然との共生のヒントが隠されていそうだ。
さて恋の行方は? むしろ恋愛至上主義でなく、独自の信頼関係を築こうとする若者たちがいじらしい、変わり種の青春小説だ。(江南亜美子・書評家)