[現代×文芸 名著60]心に触れる<14>夢の旅 愉しさと寂しさ…『屋根屋』村田喜代子著

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◎2014年刊、講談社。現在は電子版(1300円)
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 大人だって、夢を見ていいだろう。いや、大人こそもっと夢を見ていいのだ。村田喜代子の『屋根屋』は、40代の主婦みのりと、屋根の修理を通して出会った屋根屋の永瀬の、不可思議な関係を切り取る。永瀬には、夢日記をつける習慣がある。過去に、強迫神経症の治療の一環として始めたことだという。

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 夢を、見たいように見ることができる永瀬に誘導され、みのりは一緒に空を飛び、旅をする。とはいえ、夢の中でのこと。博多、奈良、フランス。寺の屋根、五重塔の屋根、大聖堂の屋根。夢だから急に途切れることもある。「今夜はここで切り上げまっしょ」「何ですって?」「ここで今夜は別れるんですよ」。そしてまた夢で再会する。

 屋根は、秘密を隠している。瓦師や若い坊主や大工が残した落書きだ。仕事の合い間に浮かんだ思いや、好きな女性の名前、手習いの歌など。遠い昔、こっそり書かれた落書きは、後の世の人の目に思いがけず、瑞々(みずみず)しく映る。

 それらについて、永瀬は「大きな建築物に向き合うと、我が身の小ささを、否が応でも思い知らされるとでしょうな。それで何か書き付けてしまいとうなる」と表わす。ずっと屋根の上で仕事をしてきた永瀬には、よくわかるのだろう。飛ぶ夢は(たの)しく、夢の旅はスリリングで心が弾む。けれど、いつもどこかに寂しさが潜んでいる。

 それは、気づいてしまったら、気づかないふりはできない種類の寂しさだ。みのりと永瀬は恋人同士ではない。互いを(おも)う気持ちはあっても、恋愛関係に踏みこむことはない。ファンタジックな夢の旅はどこへ続くのか。夢もまた現実に根差すものだと気づくことは寂しい。この寂しさの中に現代の日常がある。(蜂飼耳・詩人)

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