[現代×文芸 名著60]心に触れる<2>孤独な心 弱さの側に立つ…『ことり』小川洋子著
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小川洋子の小説は、現代社会で生きにくさを感じる心にそっと寄り添う。
主人公は「小鳥の
兄は週に一度、近所の薬局でキャンディー一本を買う。その包み紙を集めて小鳥の形をしたブローチを作るのだ。楽しみは、幼稚園の鳥小屋を眺めること。両親の没後、弟はある会社のゲストハウスで管理人として働き、二人の生活は静かに続いていく。
兄がいなくなった後、弟は幼稚園の鳥小屋の掃除を申し出て、奉仕活動としてそれを行うようになる。ところが、ある事件が起き、「小父さん」にあらぬ疑いが掛けられる。困惑の中、いっそうの孤独へ追いやられる。いや、孤独といってよいかはわからない。その心にはいつも小鳥が存在し、兄の思い出が抱きしめられているのだから。
メジロを飼う男と、メジロの歌について対話が生じたとき、「小父さん」はこう述べる。「上手いか下手かなんて、考えたこともありません」と。つまり、生きてそこにいるだけでよい、ということなのだ。
ここには、生の肯定がある。