[現代×文芸 名著60]心に触れる<3>女性に響く何気ない言葉…『おまじない』西加奈子著
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何気ない一言が人を深く傷つけることもあれば、窮地から救いだすこともある。そんな「あたりまえ」を痛感させられる一冊だ。
二〇一六年から一八年の間に発表された八つの短編では、現代を生きる女性のさまざまな葛藤や家族の多様な形が描かれている。
マスメディアで理想像として打ち出され、ソーシャルメディアでも拡散されがちな「幸福な核家族像」はここにはない。居ても父の存在は薄く、母子の距離感も微妙だ。逆に祖父母世代との結びつきは意外に強い。
女の子。正統派美少女モデル。おばさんキャラ。主人公の女性たちは、自分に貼られたレッテルに違和感を覚えながらも、まわりの期待に応えようと奔走する。
が、ある出来事をきっかけに、それぞれの「役」と向き合わざるを得なくなる。このまま演じ続けて良いものか。良い子を。良き母を。良きパートナーを。そう悩む女性たちは、家庭、職場、ネット上で遭遇する言葉にさらに傷を深める。
そこに人生の折り返し地点をとうに超えた男たちが、「不在の父」の亡霊かのように姿を現す。社会の周縁でマイペースに生きる彼らの言葉は、女性たちの耳に啓示のように響く。
が、これらは単純にさえない「おじさん」がかよわい「女の子」を救いだす物語群ではない。「おじさん」たちは、全能な救世主からはほど遠い。彼らが発する言葉はどちらかというと凡庸だ。にもかかわらず、女性たちは、その言葉の断片をつかみとり、自ら「おまじない」に「変換」してみせる。
冒頭作の「燃やす」は、英訳でも反響を呼んだ。一見柔らかなフォルムのなかに