[現代×文芸 名著60]心に触れる<5>そこにある家族「見つける」…『かけら』青山七恵著

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◎2009年刊、現在は新潮文庫(400円)
◎2009年刊、現在は新潮文庫(400円)

 娘というのは、たぶん、いつか母親との関係を乗り越えなければならない。父親が厳格だったり(かたく)なだったりする場合には、きっと父との関係も。けれどもそれが、あまり乗り越え甲斐(がい)のない人物だったら、どうすればよいのか。

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 「かけら」に出てくる父親は、たとえばそんな人物だ。語り手の“わたし”は大学生で、父とふたりでさくらんぼ狩りツアーに行くことになった。家族みんなで行くはずだったのだが、兄の幼い子どもが熱を出したため、母親も来られなくなり、娘の“わたし”と父のふたりだけになった。

 考えてみるだけで、ずいぶん気まずい状況だ。おそらく思春期を迎えたあたりから、“わたし”は父をひとりの人間として観察しようとしてきた。「お父さん」という役割を離れて。けれどそのたびにそのひとは、「ふよふよと逃げてしまう」のだった。ツアーバスを待つあいだ、語り手は自問する。「この人とわたしはちゃんと親子に見えているだろうか?」

 だけど語り手はとても目がいいから――青山七恵さんの書く小説の語り手はいつもとても目がいいと思う――少しずつそのひとを見つけていく。読んでいた夕刊に、兄の子どもがこぼしたジュースが染みこんでいくあいだ、何も言わなかった父。バスが()まったサービスエリアでお(ばあ)さんを助ける父。そうやって見つけたかけらたちを、“わたし”はすぐには組み立てない。ひとつひとつ、ゆっくりと拾いあげてゆく。その手つきを切実だと感じる。

 家族というのは、そこにあるものだ。友人や恋人のように選ぶことのできるものではない。すでに、いつも、ただそこにあるもので、だからときどきこうやって、見つけなければならないのだろう。(谷崎由依・作家)

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