[現代×文芸 名著60]心に触れる<9>普通の人 緩やかな繋がり…『アイネクライネナハトムジーク』伊坂幸太郎著

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◎2014年刊、現在は幻冬舎文庫(600円)
◎2014年刊、現在は幻冬舎文庫(600円)

 「出会い」をテーマにした歌詞を書いてほしい。尊敬するミュージシャン斉藤和義の依頼を受け、「小説ならば」と書かれたのが本連作短編集の起源。

[現代×文芸 名著60]全作品リンク集

 活躍するのは、サラリーマン、美容師、化粧品会社の広告担当など。多くの伊坂作品を(にぎ)わす殺し屋や超能力者などの特殊な人物は出てこない。ボクシングの世界王者もリングの外では「シャイ」な「いい人」だ。

 そんな「普通」の人たちが、伊坂作品らしく、境遇を越えて(つな)がっていく。しかし、その繋がりはとても緩やかなものだ。友人同士が紹介されたりはするが、人がSNSなどで繋がっている気配はない。テレビ電話も普及しておらず、お気に入りの映画はDVDで貸し借りされる。そんな時代だ。

 出会いや再会も極めて「ローカル」で「ローテク」な領域で起こる。人は横断歩道で財布を拾ったり、ファミレスでトラブルを止めに入ったりして出会う。最も「ハイテク」な仕事に携わる本作中の一編「アイネクライネ」の主人公の出会いも、ネット経由で集めたデータが消去されたために命じられた時代遅れの街頭アンケートがきっかけだ。

 本作では恋愛において「計算高い」ことは軽蔑(けいべつ)され、「非効率」であることが美徳とされる。出会いや再会を望む者も、()えて届きにくいコミュニケーション手段を選び、決してググッたり、タグッたりしない。それでも最後に人は繋がり、ちょっとしたサプライズも仕込まれている。

 どんなヘビー級のテーマもライトなタッチで描く伊坂作品は、世代を越えて読者を繋げる力を持つ。デジタル・デバイスで絶え間なく繋がり、出会いを求めて積極的にアルゴリズムを活用する世代に本作が今後どう読み継がれるか。注目したいところだ。(辛島デイヴィッド・翻訳家、作家)

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