お題は「語り合いたくなる本」<1>

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 相も変わらぬ猛暑の日々、皆さまいかがお過ごしでしょうか。お盆を前に、すでに故郷へ帰省されている方もいらっしゃるでしょう。そんなあなたに贈る「本よみうり堂」今年の夏休み特集は、久しぶりに会う郷里の友人・知人と、読後の感想をじっくり語り合いたくなる本をノンジャンルでご紹介します!

宮本常一著『忘れられた日本人』(岩波文庫、800円)

 戌井昭人(作家)

 「夏はフィールドワークの季節だ」と言いつつ、自分には学術的な目的もないので、ただ歩きまわっているだけなのですが、旅先で現地の人から土地にまつわる荒唐無稽な話や猥談わいだんを聞くのは楽しいものです。

 本書は私のような似非えせではない、宮本常一が日本各地をフィールドワークしたもので、南国土佐の珍奇なじい様が語ったという「土佐源氏」が最高です。悲哀もあるがユーモアもあり、読めば必ず、この爺様を好きになって、誰かと語らいたくなるでしょう。さらに自分もこのような爺様を探して、実際に語ってもらいたくなります。


近田春夫著『考えるヒット テーマはジャニーズ』(スモール出版、1600円)

 鈴木洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

 ジャニー喜多川氏が亡くなり初めての夏、その足跡を振り返るために本書で語り合いたい。

 著者は、日本語ラップの先駆者であり、1970年代末から歌謡曲評論を手がける。

 本書は、そんな著者が『週刊文春』に20年以上にわたって連載中のコラムから、ジャニーズの楽曲を扱った回を選ぶ。

 スキャンダルではなく、彼らの歌手としての技や魅力を読むうちに、世代を超えるジャニーさんの審美眼にうなってしまう。

 ジャニーズの音楽は一貫し、アーティストごとに個性がある。そのすごさを言葉で書きつくす著者もまたすごい。

三浦瑠麗著『孤独の意味も、女であることの味わいも』(新潮社、1300円)

 坂井豊貴(経済学者・慶応大教授)

 いま私の周りで最もよく語られているのが本書。湘南での少女時代を経て、政治学者として活躍する現在までをえがく、著者の自伝的な随想である。振り返るのは、人生に跡を残した出来事と心の動き。性的な被害や子の喪失など、公に語れるようになるまで時間を要した内容も多い。

 著者は「あなた自身を、出来事や外部に定義させてはいけない」と静かに言い切る。過去は変えられずとも、その意味は「いま」の自分が与えてよいのだし、そこに人間の自由はあるのだ。文章は情熱を含みながらも穏やかで、清冽せいれつな水のよう。


マーク・ニクソン著、金井真弓訳『愛されすぎたぬいぐるみたち』(オークラ出版、1700円)

 村田沙耶香(作家)

 友人のお母さんがぬいぐるみと旅行をした、という素敵な話を聞いた。そういえば、私はぬいぐるみと旅をしたことがない。子供の頃はぬいぐるみより毛布を愛してしまったが、今からでも遅くはないかもしれない。

 この本は持ち主に愛されてぼろぼろになったぬいぐるみの写真を集めた一冊だ。写真の横には年齢やエピソードが載っている。百歳を超えた子や、何度も手術された子、どの写真を見てもいとおしい気持ちがこみあげる。最後に自分のぬいぐるみの写真を貼るページがある。あなたが愛したのはどんな子? と誰かに聞きたくなってしまうのだ。

寺井奈緒美著『アーのようなカー』(書肆侃侃房、1700円)

 一青窈(歌手)

 誰にひけらかすでもない日常のワンシーンをセピア色に切り取ったような短歌集。ことばの選び方が清々すがすがしいため、確かな人間らしさが立ち現れる。<素揚げしてみればだいたい食べれると言われたけれど庭へと返す>それが何かは知り得ないが、想像膨らむ豊かな時を蓄えた歌だ。<ぴかぴかの折り紙使う勇気なく死ぬまでに見られるかオーロラ>は、そうだという原風景をまさしく書きだしてもらう事でかつて味わえなかった余韻を楽しめる。最後に私のお気に入りの一首。<ここに来たときよりも美しくして帰る遠足みたいに死のう>前向きになる本!


山田稔著『山田稔自選集I』(編集工房ノア、2300円)

 苅部直(政治学者・東京大教授)

 小説ともエッセイとも言える作品群からよりすぐった、選集の刊行が始まった。最初は巻末の「コーモンのむこうがわ」、大学紛争時の幻の作品をとりあげようと思ったが、すぐ気が変わるのも会話のおもしろいところ。別の一篇いっぺん「独り酒」について語りたい。

 家でひとり飲んでいるうちに、こぼれた酒の上を、さかずきがすっとすべる。そのときに亡き友人の言葉を思い起こして、「帰って来ているな、とついあたりを見回した」。元気な方がそばにいるならもちろん結構だが、語り合う相手は、生きている人だけとはかぎらない。

G・ヴェルガ作、河島英昭訳『カヴァレリーア・ルスティカーナ 他十一篇』(岩波文庫、780円)

 鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

 夏の盛り、2週間ほど欧州で仕事し、帰国前、久しぶりにナポリに遊んだ。シチリアを統治し、富を得る人はナポリに住む。サン・カルロ歌劇場の総裁と遅い午後の食事をし、その晩、公演中の「カヴァレリーア・ルスティカーナ」を眺めた。

 著者の名を知らしめたのは、砂糖水のように甘ったるいマスカーニのオペラの間奏曲かも知れないが、シチリアの下層階級を「獣の視点」で描いたのが本短編集である。「現代のシチリアは、古代のギリシアと、まさしく表裏をなしている」(訳者)。秀逸な翻訳で歴史の中に消えたシチリアの特異な社会がよみがえる。

週刊文春編『週刊文春「シネマチャート」全記録』(文春新書、920円)

 宮下志朗(仏文学者・放送大客員教授)

 昭和末期から平成の映画を、令和初の夏に回顧するのに最高の本。1977―2017年のシネマチャートを数値化し、洋画は200位、邦画は50位まで選び、池波正太郎、小森和子らのコメントを再録した。監督別ではイーストウッドの9本、北野武の4本が1、2位だが、前者の名作『バード』が含まれておらず、議論百出でしょう。

 『ニュー・シネマ・パラダイス』も宮崎駿作品もなく、『ブレードランナー』が331位。1位の『スピード』など「点でて」(芝山幹郎)面白いものと、線や面、つまり歴史で観て良さがわかる作品があるのです。

大迫直志編『ジ温泉カタログ(九州編)』(アンノウン・ジャパン、税込み3900円)

 三中信宏(進化生物学者)

 夏休みのためのとっておきの温泉本。九州各地に点在するさまざまな泉質の秘湯を訪ね歩いたカラー写真集だが、どのページにも湯船でゆったりくつろぐおじさんやおじいさんたちのほどけた笑顔が並ぶ。説明文はいっさいなく、ページ端に付けられたQRコードからたどれば各温泉の詳細情報がわかるという異例づくしの体裁だ。地域ごとの分冊キンドル版もある。温泉は火山国である日本の賜物たまものだ。湯船をひたすら撮り続けた本書を手にすれば、ほんものの温泉ならではの愉楽とその文化についてともに熱く語り合うことがきっとできるだろう。


渡辺京二著『逝きし世の面影』(平凡社ライブラリー、1900円)

 森健(ジャーナリスト・専修大非常勤講師)

 夏季休暇に日本の各地を訪れるなら、在りし日の日本にも思いを巡らせてみたい。

 幕末・明治初期に来日した外国人はいくつもの日本見聞記を残した。それらを読み解いた本書を読むと、在りし日の日本が浮かんでくる。手入れの行き届いた田畑は「農園というより庭園」と映り、多くの農民は「いい着物を着、十分な食事を」とっていたという。外国人は「丁重さと愛想のよさ」に驚き、「天国に近い国」と賞賛した。

 一方で、西洋文化の流入で近代の美徳は失われつつあったとも指摘している。この国は何を誇り、何を失ったのだろうか。

浅暮三文著『おつまミステリー』(柏書房、1800円)

 本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

 ミックスナッツの中の、あのジャイアントコーンが、ぺルーの奥の一部地域でしか生産されないって知ってました? 「チーズたら」は試作段階ではチーズといかの組み合わせだったとか、チーズかまぼこの最初の商品名が「おらがさち」だなんて、初耳ですよね。ザーサイの起源をたどれば、前線の兵士に野菜を供給するために、かの諸葛孔明がひろめた「諸葛菜」だそうな。

 おいしいけれど、ちょっと侮られている「乾きもの」を中心に、お馴染なじみのおつまみの秘密が満載! これを読んでおけば、夏の一夜にお酒が進み、話がはずむこと請け合いです。

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744921 0 読書委員が選ぶ「夏休みの1冊」 2019/08/19 05:25:00 2019/08/19 17:06:19 2019/08/19 17:06:19 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190815-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

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