お題は「語り合いたくなる本」<2>

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 相も変わらぬ猛暑の日々、皆さまいかがお過ごしでしょうか。お盆を前に、すでに故郷へ帰省されている方もいらっしゃるでしょう。そんなあなたに贈る「本よみうり堂」今年の夏休み特集は、久しぶりに会う郷里の友人・知人と、読後の感想をじっくり語り合いたくなる本をノンジャンルでご紹介します!

チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ著、くぼたのぞみ訳『イジェアウェレへ フェミニスト宣言、15の提案』(河出書房新社、1380円)

 岸本佐知子(翻訳家)

 「生まれたばかりの娘をフェミニストに育てるにはどうしたらいい?」友人にそうかれた著者が、それへの答えという形で書いたのがこの本だ。やさしい言葉で、自分の頭を整理しいしい書かれているため、男女問わず、すべての人にとってシンプルでとてもわかりやすいガイドブックになっている。フェミニズムは別に難解でもおっかなくもない、要は人間として対等に扱われたい、自由な個でありたいという意思の表明なのだと気づかせてくれる。読みおわったあと、この手のひらサイズの美しい本を、きっと誰かにプレゼントしたくなるだろう。


デイビッド・モントゴメリー、アン・ビクレー著、片岡夏実訳『土と内臓 微生物がつくる世界』(築地書館、2700円)

 藤原辰史(農業史研究者・京都大准教授)

 植物は、栄養たっぷりのエキスを根から分泌して土壌中の微生物を引き寄せる。こうやって植物は微生物から、得難い物質を吸収しているという。

 この本の著者によれば、驚くべきことに人間の腸内でも同様のことが起こっている。大腸細胞が分泌する粘膜は細胞を保護し、内容物が動きやすくする潤滑油の役割だけでなく、微生物のエサにもなっている。

 土壌と大腸。一見シュールな組み合わせだが、類似点が多い。なんだか我が腸内にむ微生物がいとおしくなる。この夏は、野菜をもりもり食べて、微生物の住居環境を整えてあげたい。


マイケル・ホワイト著、大森充香訳『ニュートンとコーヒータイム』(三元社、1500円)

 篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

 優秀な人と出会うことほど、自分を高めてくれる機会はない。夏休みであれば、時間をとって、歴史的な天才と会話をしてみることによって、自分を高めてみてはどうだろうか。

 偏屈だが、人類史に残る天才、ニュートンとの会話。なぜニュートンは、宇宙の運動法則を公式化できたのか。会話の中に、何かヒントがないか。気になって読みふけってしまう。

 ニュートンのような歴史を変える天才を模倣することはできない。だがせめて時には、人間の可能性は無限であるということについて、思い出してみてもいいかもしれない。

戸田山和久著『恐怖の哲学 ホラーで人間を読む』(NHK出版新書、980円)

 山内志朗(倫理学者・慶応大教授)

 なぜ人は怪談を好むのだろう。哲学者である戸田山さんの『恐怖の哲学』は、人類の恐怖大好き症の理由を解明してくれる。恐怖もまた人間の脳に刻み込まれた生き残り戦略らしい。

 人間は遊ぶことのできる動物であり、その形式には競争・賭け・模倣・眩暈めまいの四つがある。眩暈は大事だ。舞踊、登山、飲酒は確かに眩暈だ。絶叫系マシーンや、難解な哲学の中に眩暈を求める人もいる。怪談もホラーも眩暈なのだ。こういうことを考えると、ゾッとする気分と哲学が味わえる。皆でなぜ怖がりたがるのか語り合うのも涼しく楽しい夏の過ごし方である。

清野恵里子著『咲き定まりて 市川雷蔵を旅する』(集英社インターナショナル、2400円)

 通崎睦美(木琴奏者)

 今年は、1931年に生まれ、69年、37歳で夭逝ようせいした市川雷蔵の没後50年。15年の間に約160本もの映画に出演した彼の作品が紹介される機会も多い。

 そこで合わせて楽しみたいのが、不世出の名優に魅せられた文筆家による雷蔵論。「炎上」「大菩薩ぼさつ峠」「眠狂四郎」など、雷蔵出演の映画中28本を選び、様々に収集した資料を引いて軽やかに寄り道しながら幅広く作品を語る。

 タイトルは、白樺派の歌人、木下利玄りげんの代表的な歌「牡丹ぼたん花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ」より。美しい装幀そうていに、写真も映える。

平山夢明著『あむんぜん』(集英社、1000円)

 宮部みゆき(作家)

 平山さんの小説を読むと、なぜかしら殊勝な気持ちになる。世の中に対して「すみません」と、小さな幸せに「ありがとう」と言いたくなる。

 これは私一人だけに起こる現象なのだろうか。知りたくて、猛然と誰かと話したくなる。まだ読んでないの? 早く読んで感想を聞かせて! と迫りたくなる。それほど切実なおもいをかき立ててくれる小説なのに、いざ誰かと語り合うと、一緒に笑い転げてしまう。もう、バカバカしくて、最高だよねと。

 私の知る限り、こんな小説を書ける人は平山さんだけだ。羨ましいし恐ろしい。


イ・ギュテ著、矢島暁子訳『韓国人のこころとくらし 「チンダルレの花」と「アリラン」』(彩流社、2500円)

 加藤徹(中国文化学者・明治大教授)

 著者は韓国の名コラムニスト。昭和期には漢字表記の「李圭泰」名義で邦訳書が次々と刊行された。自身の人生体験や歴史の挿話を紹介しつつ、韓国人の心の機微をやさしく説き明かす。韓国人の「ノー」は本当は「イエス」の意味だったり、「すみません」は「ありがとう」のつもりだったりする。ここは日本人と似ている。が、体がぶつかっても謝らず、三人称の感情も「彼女は悲しい(クニョヌン スルプダ)」のように主観的に表現する点は、日本人とも西洋人とも違う。それには理由がある。こういう時代だからこそ、ぜひ語り合いたい本だ。


塩野七生著『ルネサンスの女たち』(新潮文庫、670円)

 橋本五郎(本社特別編集委員)

 地方支局での新聞記者としての徒弟時代、最も心がけたことの一つは読書量を減らしてはならないということでした。学生時代の親友と毎月、「二人だけの読書会」を私の赴任先の浜松と彼の勤務先の東京、中間の伊豆で交互に開いて読後感を話し合い、それを録音しました。

 互いに持ち寄った新刊書の一冊に『ルネサンスの女たち』がありました。衝撃でした。「文芸復興」というルネサンスのイメージとは全く違って、冷徹な政治を体現するかのような多くの女性たちがいたことを知りました。そのときから教科書を疑うようになりました。


池澤夏樹著『科学する心』(集英社インターナショナル、1800円)

 尾崎真理子(本社編集委員)

 自然科学全体を網羅するこのエッセー集を〈1〉生物や機械の仕組みに詳しい〈2〉宇宙や数学が嫌いじゃない〈3〉地理や文学(特に宮沢賢治や寺田寅彦)が好き〈4〉全部に関心だけはある(私は〈4〉)――そんな仲間で読書会が開けたら、どんなに有意義だろう。

 最新成果はいくぶん懐疑的に、体験による発見、科学の古典の価値は確信をもって書いてある。随所にみつかる著者による金言、警句を掘り出し合うのもいい。やがて著者がいうところの〈正しい世界図の回復〉を実感できるはず。池澤の名作『スティル・ライフ』などを読み返したくなるかもしれない。


ヨッシー・クライン・ハレヴィ著、神藤誉武訳『わが親愛なるパレスチナ隣人へ』(ミルトス、2500円)

 番外編 よみうり堂店主

 夏目漱石は「二個の者がsame space(同じ場所)ヲoccupy(占有)スル訳には行かぬ」と書いた。リアリズムによる達観である。では、イスラエル/パレスチナの二国家共存は夢なのか。諦めてはいけない。

 イスラエルのユダヤ人である著者は、この地が同胞にとっていかに重要かをパレスチナ人に語る一方、自らの正義をいったん脇に置き、お互いを尊重しようと呼びかける。百年近くも戦い続けている敵同士が、互いの物語と正統性を認め合うことは現実には難しい。だが、過激な暴力に代わる解決は他にないことを、この本は教えてくれる。

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744943 0 読書委員が選ぶ「夏休みの1冊」 2019/08/19 05:20:00 2019/08/19 05:20:00 2019/08/19 05:20:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/08/20190815-OYT8I50013-T.jpg?type=thumbnail

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