心や体がスッとする「健やか」になる本<2>

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 2年続けてこんな夏になるなんて……。テレビ越しの五輪選手の活躍には胸が躍るけど、遊びに出かけるのもはばかられ、何だかモヤモヤが晴れないというあなた。こんな時だからこそリフレッシュできる、えりすぐりの本を、読書委員がご紹介します。

夏目漱石著『坊っちゃん』(集英社文庫、286円)

  木内 昇 (作家)

 無鉄砲で一本気。曲がったことや、心ない うわさ 話、無責任な中傷、ついでに皮肉も大嫌い。違うと思えば違うと、はっきり意思表示する頑固者。ために、建前社会では損ばかりしている。 生まれ育った東京をあとにして愛媛松山で教職に就くも、周りとぶつかることは茶飯事。でも、そんな坊っちゃんがやけに まぶ しく見えるのだ。堂々と自分の名で意見を言い、態度で示す、その強さに、グッとくるのだ。

 教科書に載っていると、つい読んだ気になってしまう名作だが、世間という名の膜に包まれ、身動きできなくなった大人にこそ、出会い直してほしい一冊。

ロブ・デサール、イアン・タッターソル著、ニキリンコ、三中信宏訳『ビールの自然誌』(勁草書房、2420円)

  瀧澤 弘和 (経済学者・中央大教授)

 ビールを愛する2人の生物学者が、人文・社会科学と自然科学を自在に横断し、文字通り「自然誌」的に人間とビールの関係を論じる。

 著者たちは、近年のクラフトビール熱の到来を大歓迎。ビールが本来の多様性を取り戻すことに大きな期待を寄せる。

 ヒトが適度なアルコール耐性を持って、ほろ酔いを経験できるのは進化のおかげだ。また自然の 賜物たまもの を今日のビールの姿にまで磨いてきたのは人間の歴史である。そんな感慨を抱かざるをえない。ビールの たの しみを与えてくれた進化と文化の歴史に乾杯!

さん喬と弟子たち著『柳家さん喬一門本』(秀和システム、2200円)

  国分 良成 (国際政治学者・前防衛大学校長)

 防大校長時代、柳家さん きょう 師匠には2度防大での公演をお願いした。国に人生を ささ げる防大生のためと、二つ返事で引き受けてくれた人情派の はなし 家だ。

 本書は、さん喬師匠の弟子の柳家喬太郎ら14人が入門の経緯を語るなかで、師匠を さかな にその人となりを皆で浮かび上がらせるという乙な構成。

 さん喬師匠はタレント業で無駄な消費をせず、ひたすら高座に出て古典落語を磨く。本書から浮かび上がるのは、師匠の恩師・柳家小さんに対する深い敬慕の情、そしてその孫弟子たちとさん喬師匠が奏でる強い絆の人情噺である。

西平直著『養生の思想』(春秋社、2200円)

  中島 隆博 (哲学者・東京大教授)

 個人のための養生から、健康であることを強いる国家のための衛生へ。コロナ禍の現在、わたしたちがモヤモヤしているのは、こうした近代的なパラダイムの中に置かれているからではないでしょうか。ここで、この本とともに江戸時代の貝原益軒の『養生訓』に体現された養生を思い出してみましょう。それは気を通じて心と身体の両方を養う技法ですが、楽しみは決して失わないものです。著者は、「まことの楽は、人とともに楽しんでこそ」と指摘しています。この夏は、衛生ではなく、養生という柔らかな概念に、是非触れていただければと思います。

フランツ・カフカ著、頭木弘樹編訳『絶望名人カフカの人生論』(新潮文庫、605円)

  小川さやか (文化人類学者・立命館大教授)

  鬱々うつうつ としている時にポジティヴな言葉を聞かされ、余計に疲れてしまうことがある。失恋した時に悲しい歌が染みるように、弱った心に寄り添う後ろ向きな言葉に浸りたい時もある。

 ただカフカのネガティヴさは、思わず笑ってしまうほどに突き抜けている。「いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです」「床の上に寝ていればベッドから落ちることがないように、ひとりでいれば何事も起こらない」

 私はそこまで絶望していなかったというカタルシスを得させてくれるカフカはやはり偉大な作家だ。

高野文子著『るきさん』(ちくま文庫、638円)

  宮部みゆき (作家)

 言わずと知れた名作なので、どのテーマのときに挙げても相応の理由でぴたりと収まりそう。たとえば「笑って泣ける本」とか、「日々の暮らしの楽しさを見つめ直す本」などなど。それらの効能も含めて、私にとって『るきさん』は、何となく心が濁って 身体からだ が重たいときに読む特効薬本なのです。

 意外とファンシーなものは好まず実用一点張りだとか、電車に乗るときよくドアに挟まれるのに、車内ではいねむりが得意だとか、「MISS RUKI」はいそうでいない普通の女性。その「特別な普通」が、疲れた心身を浄化してくれるのでしょう。

上大岡トメ著『キッパリ! たった5分間で自分を変える方法』(幻冬舎文庫、550円)

  仲野 徹 (生命科学者・大阪大教授)

 「ラジオ体操」をする、夜空を見上げる、人と比べない、など、小さな生活習慣を身につけようという提案が60個並んでいる。

 驚くなかれ、生涯でいちばん大きな影響を受けたのはこの本だ。そんな大げさなと思われるかもしれないが、本当だから仕方がない。生活習慣など簡単に変えられると実感できたことにより、人生が大きく変わった。

 コロナでのニューノーマル、新しいライフスタイルを受動的に取り入れるんじゃなくて、こちらから積極的に変わっていけばいい。心も体もスッとすること間違いなし。 だま されたと思って読んでみてください!

山本周五郎著「ひやめし物語」(『大炊介始末』)(新潮文庫、825円)

  橋本 五郎 (本社特別編集委員)

 家族の慈しみを受け、人を信じ、おおらかに生きることの大切さをしみじみと教えてくれる作品である。

 柴山家の四男大四郎は26歳。趣味の古本あさりの道で出会った佳人を見初めるが、兄の厄介になっている「 冷飯ひやめし 」の身分では かな わぬことと諦め、通り道を替えるようになる。

 ところが、 桔梗ききょう の花のようなぬひも大四郎を おも っていた。会えないことを嘆き、部屋にこもって願いが届くようにひたすら鶴を折っていた。天はこの良き人たちを見捨てない。兄たちの力や趣味の古本集めも生かされて道が開かれるのだった。

福岡伸一著『生命海流』(朝日出版社、2090円)

  尾崎真理子 (早稲田大教授、本社調査研究本部客員研究員)

 ともかく異境へ行きたい! そんな思いを引き受けるように「新・ドリトル先生」を自任する生物学者・福岡ハカセの航海記が現れた。赤道直下、ガラパゴス諸島への旅をついに実現させたのだ。1835年に青年ダーウィンを乗せてここを巡った、かのビーグル号と同じ経路で。腕利きの船長や料理人ら7人の仲間と共に。それはコロナ禍が地球を覆う寸前のことだった。

 胸躍る約1週間の記録。海の写真が美しい。生物とは、ウイルスとは、生命の実相「ピュシス」とは何だろう。隔絶した健やかな世界を伝えられ、ハカセ同様、ロゴスから解放されてゆく。

西原理恵子著『毎日かあさん4』(毎日新聞出版、921円)

  番外編 (よみうり堂店主)

 雑に育てても子どもは育つというお母さんと、アルコール依存症だった情けないお父さん、優等生とはいえない子どもたち。著者の家族やその周辺のドタバタな日常を描いた漫画だ。

 読むとゲラゲラ笑いながらもホッとする。それはなぜか考えるうちに、無理をした“きれい事”はなく、人間のダメな部分も前向きに受け止める“健やかさ”があるからだとわかった。

 ただのバカバカしい漫画と思った人も、終盤の展開には思わず涙するはず。気づけば、地に足のついていない、世の中の大抵のきれい事は気にならなくなっているに違いない。

 心や体がスッとする「健やか」になる本<1>は、 こちら

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2291447 0 読書委員が選ぶ「夏休みの1冊」 2021/08/18 05:20:00 2021/08/18 09:39:07 2021/08/18 09:39:07 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/08/20210813-OYT8I50034-T.jpg?type=thumbnail

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