読書委員が選ぶ「2019年の3冊」<上>

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 「本よみうり堂」では読書委員20人が2週に1回集まって読書委員会を開き、毎回200冊近い新刊本に目を通します。書評すべき本は全員で回覧して議論し、検討を重ねた上で紹介しています。2019年の最後に、今年の新刊の中からこれはと思う3冊を挙げてもらいました。

戌井 昭人(作家)

〈1〉『全著作 森繁久彌コレクション第1巻 道―自伝』(藤原書店、2800円)

〈2〉友川カズキ著『一人盆踊り』(ちくま文庫、820円)

〈3〉檀廬影著『僕という容れ物』(立東舎、1600円)

 森繁久彌の本はこれまで古本屋などで見つけたら購入していたが、全集になり第一巻が刊行された。全五巻の刊行予定で今後も楽しみだ。『一人盆踊り』は、友川カズキさんのエッセイなどをまとめたもの。壮絶な酔っ払い話や、とぼけた話が、どういうわけか心に染み渡ってくるのだった。檀廬影だんいえかげさんの『僕というれ物』はヒリヒリする青春の日常が書かれて、読書をして久しぶりに、なにかをえぐられたような気持ちになった。

 

 

 

篠田 英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

〈1〉フランシス・フクヤマ著『政治の衰退』上・下(講談社、各3000円 会田弘継訳)

〈2〉ジャレド・ダイアモンド著『危機と人類』上・下(日本経済新聞出版社、各1800円 小川敏子・川上純子訳)

〈3〉北岡伸一著『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』(新潮社、1300円)

 〈1〉政治にも盛衰がある。政治の進展とは何か、何が政治を衰退させるのか。30年前に「歴史の終わり」を語って一世を風靡ふうびした著者が語る「政治の衰退」論の射程は広い。〈2〉諸国は、長い歴史の中で数多くの危機を乗り越えてきた。日本もそうだ。当代きっての歴史家の洞察に学ぶことは多い。〈3〉ただし歴史だけではなく、地理も見なければならない。歴史家とともに世界地図を読み直して見えてくる政治の光と影がある。

村田沙耶香(作家)

〈1〉ニック・ドルナソ著『サブリナ』(早川書房、3600円 藤井光訳)

〈2〉川上弘美著『某』(幻冬舎、1600円)

〈3〉ジュンパ・ラヒリ著『わたしのいるところ』(新潮クレスト・ブックス、1700円 中嶋浩郎訳)

 〈1〉グラフィックノベルというものをほとんど初めて読んだが、多分一生忘れられない本。ネット上の「大衆」の恐ろしさにのめりこみ、精神的に打ちのめされた。〈2〉は、いろいろな人間の日常、人生、肉体とそれに宿る精神が重なっていくような不思議な感覚の本で、読んだ後も想像が膨らんだ。〈3〉は書評も書いたがどうしても挙げたかった本。「日常」と呼んでいる時間に本当は宿っているものをこんな風に小説にできることにしびれた。

鈴木 洋仁(社会学者・東洋大研究助手)

〈1〉マイク・コールマン著『エディー・ジョーンズ 異端の指揮官』(東洋館出版社、2000円 高橋紹子訳)

〈2〉加藤文元著『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(KADOKAWA、1600円)

〈3〉栗川治編『愛とユーモアの保育園長 栗川清美その実践と精神』(新潟日報事業社、1300円)

 〈1〉は前回ラグビーW杯では日本を率い、今回はイングランドを準優勝に導いた闘将の評伝です。楕円だえん球の魅力と厳しさを強烈に教えられました。〈2〉の中身をめぐっては、全てを理解できません。なのに何度も読み返してしまいます。数式をほとんど使わずに説く、著者の力量にも脱帽しました。〈3〉は、愛情の物語です。保育園長だった妻とのこされた夫の絆に涙します。子どもと接するためにユーモアがいかに大切か。これぞ社会学です。

一青  窈(歌手)

〈1〉藤岡拓太郎 さく・え『たぷの里』(ナナロク社、1200円)

〈2〉フアン・ベラスコ、サムエル・ベラスコ著『なかみグラフィックス』(グラフィック社、3500円 和田侑子訳)

〈3〉ERIKO著、寺崎愛・イラスト『せかいのトイレ』(日本能率協会マネジメントセンター、1000円)

 〈1〉を読むと我が子がいまだかつて発音したことのない音をリピートする。なんてすてきな遊びと学びの時間を供給してくれる絵本なのだろう!〈2〉の断面図鑑は視覚的な情報を得ることで想像力が驚くほど研ぎ澄まされてゆく〈3〉トイレはその国を知るのにうってつけの場所だ。アフリカの奥地で懐中電灯で照らした黒い便器が一斉に動き、その塊がゴキブリだと知った。この本があれば私のように旅先で悲鳴をあげずに済むかもしれない。

苅部 直(政治学者・東京大教授)

〈1〉ダグラス・マレー著『西洋の自死』(東洋経済新報社、2800円 町田敦夫訳)

〈2〉平山周吉著『江藤淳はよみがえる』(新潮社、3700円)

〈3〉『ガラン版 千一夜物語』〈1〉~〈3〉(岩波書店、各3500円、刊行中 西尾哲夫訳)

 〈1〉は内容が重要であるにもかかわらず、あまり話題にならなかった気がする。リベラリズムと多文化主義が生み出したヨーロッパ諸国の危機を、真剣に指摘した一冊。

 江藤淳に関する浩瀚こうかんな評伝である〈2〉は、カバーをめくると、見返しに江藤の母の写真がそっと現われる装丁も、何とも心にくい。

 訳文も、また書籍としてのたたずまいもみごとに美しいのが〈3〉。続きを楽しみにしながら、ゆっくり読んでいたい。

鈴木 幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

〈1〉ミロスラフ・ペンコフ著『西欧の東』(白水社、2800円 藤井光訳)

〈2〉エイモア・トールズ著『モスクワの伯爵』(早川書房、3600円 宇佐川晶子訳)

〈3〉オルハン・パムク著『赤い髪の女』(早川書房、2300円 宮下遼訳)

 日本の小説が面白くないわけではないが、記憶に残る小説や読み物はほとんど海外の作品。〈1〉ある日、村の真ん中を流れる川で国家が二つに分かれ、川を挟んでひかれ合っていた男女が、異国の二人となってしまう。〈2〉ロシア革命後、30年以上最高級ホテルに幽閉された貴族が、広い空間にいるかのように生き生きと暮らす。〈3〉大戦後、変貌へんぼうするイスタンブールを、「子殺し」「父殺し」のテーマに執着しながら、文化の交錯を背景に描く。

宮下 志朗(仏文学者・放送大客員教授)

〈1〉佐藤彰一著『歴史探究のヨーロッパ』(中公新書、900円)

〈2〉斎藤泰弘著『誰も知らないレオナルド・ダ・ヴィンチ』(NHK出版新書、1100円)

〈3〉奥山俊宏・村山治著『バブル経済事件の深層』(岩波新書、820円)

 扱えなかった3冊、新書限定です。〈1〉著者が中世ヨーロッパの歴史を辿たどる全5巻の最終巻で、修道院と学問の相関を描きます。専門書を新書版で、という碩学せきがくによる挑戦。〈2〉没後500年の今年、ダ・ヴィンチ本はかなり出ましたが、その白眉でしょう。ダ・ヴィンチの手稿の翻訳を多数手がけている著者ならではの視点が光ります。〈3〉「平成本」です。バブル崩壊を象徴する四大事件の取材・検証だが、ドキュメンタリー風で読みやすい。

通崎 睦美(木琴奏者)

〈1〉西川祐子著『花の妹 岸田俊子伝』(岩波現代文庫、1460円)

〈2〉アンヌ・グロフィレー著『ワックスプリント 世界を旅したアフリカ布の歴史と特色』(グラフィック社、3900円 ダコスタ吉村花子訳)

〈3〉秋山あい著『パンティオロジー』(集英社インターナショナル、2200円)

 〈1〉「女演説」で一世を風靡ふうびした1863年京都生まれの民権運動家を、京都育ちの著者が描く。新聞連載を元に刊行された著作の文庫化。〈2〉今年はディオールのコレクションに登場するなど、アフリカのテキスタイルが話題になった。鮮やかな色遣いとモチーフの社会性を銘仙着物と比較すると面白い。〈3〉考現学「モデルノロジー」のオマージュともなる「パンティオロジー」。ドローイングも素敵。〈1〉の時代なら「おこしオロジー」か。

森 健(ジャーナリスト・専修大非常勤講師)

〈1〉山川徹著『国境を越えたスクラム』(中央公論新社、1800円)

〈2〉三宅玲子著『真夜中の陽だまり』(文芸春秋、1500円)

〈3〉秋山千佳著『実像』(KADOKAWA、1700円)

 現代を描いたノンフィクション3冊。〈1〉はラグビー日本代表で活躍してきた外国出身選手たちのルポ。衝突や葛藤を乗り越えて日本で信頼を培った。〈2〉は博多で40年ほど続く夜間保育園の実情を取材。歓楽街に働く女性たちとその子どもたちを預かる人たち。制度の不備も見える。〈3〉は薬物依存などの非行少年に食事を約40年提供してきた元保護司の80代の女性。問題を抱える人たちの実情とその人たちを救う女性の思いの深淵しんえんに迫った。

本郷 恵子(中世史学者・東京大教授)

〈1〉歴史学研究会編『天皇はいかに受け継がれたか』(績文堂出版、2800円)

〈2〉マイケル・オンダーチェ著『戦下の淡き光』(作品社、2600円 田栗美奈子訳)

〈3〉信田さよ子著『<性>なる家族』(春秋社、1700円)

 〈1〉は天皇位の継承をめぐる歴史的経緯を検証する。不変の「伝統」が存在するわけではなく、時代に応じて更新されてこその伝統であることがあきらかになる。〈2〉の主人公が14歳の時、両親は姿を消した。彼は正体の知れぬ大人たちに委ねられて青春を送る。切なさと美しさが共鳴する物語。〈3〉が論じるのは家族の深奥だ。日々の暮らしの中では抵抗不能の力関係が刷りこまれる。最も起こってはいけないことを繰り返さないために。

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985839 0 読書委員が選ぶ3冊 2020/01/07 05:25:00 2020/01/06 17:06:48 2020/01/06 17:06:48 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/01/20200106-OYT8I50057-T.jpg?type=thumbnail

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