読書委員が選ぶ「2019年の3冊」<下>

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 「本よみうり堂」では読書委員20人が2週に1回集まって読書委員会を開き、毎回200冊近い新刊本に目を通します。書評すべき本は全員で回覧して議論し、検討を重ねた上で紹介しています。2019年の最後に、今年の新刊の中からこれはと思う3冊を挙げてもらいました。

岸本 佐知子(翻訳家)

〈1〉内澤旬子著『ストーカーとの七〇〇日戦争』(文芸春秋、1500円)

〈2〉和山やま著『夢中さ、きみに。』(KADOKAWA、700円)

〈3〉村田沙耶香著『生命式』(河出書房新社、1650円)

 書評で紹介できなかった三冊。〈1〉ストーカー被害を被害者の側から圧倒的な筆力で描いた迫真の書。自分を守ってくれるはずの法や警察までがじわじわ被害者を追い詰める恐怖。全人類必読の書です。〈2〉今年いちばんキュンときた漫画。二階堂というキャラの誕生を祝福したい。男子校に入りたくなった。〈3〉今年一番のパワーワード、「正常は発狂の一種」。村田沙耶香を読むたびに自分の中の「正しさ」が揺さぶられ、生が更新される。

 

 

 

藤原 辰史(農業史研究者・京都大准教授)

〈1〉香川檀著『ハンナ・ヘーヒ』(水声社、4000円)

〈2〉猪瀬浩平著、森田友希・写真『分解者たち』(生活書院、2300円)

〈3〉レベッカ・M・ハージグ著『脱毛の歴史』(東京堂出版、3200円 飯原裕美訳)

 〈1〉今年最後の大収穫。男ばかりのダダイストの中で、最後までダダ(反芸術を掲げた20世紀初頭の前衛運動)のモチーフを保ち、革新し続けた希有けうな芸術家の一代記。植物を描いた彼女の作品が素晴らしく、画集を爆買いしてしまった。〈2〉猪瀬の文章にはいつもごまかしがない。埼玉の見沼田んぼに生きる障害者、動物、植物から元気と勇気をもらった。〈3〉今年書評した中で一番驚いた本。科学史と文明史とジェンダー史の希有な融合。

三中 信宏(進化生物学者)

〈1〉奥山淳志著『庭とエスキース』(みすず書房、3200円)

〈2〉アンデシュ・リデル著『ナチ 本の略奪』(国書刊行会、3200円 北條文緒・小林祐子訳)

〈3〉ロン・リット・ウーン著『きのこのなぐさめ』(みすず書房、3400円 枇谷玲子・中村冬美訳)

 書評欄未登場の3冊。〈1〉は北海道の新十津川町で独り小屋に住む老人を10年あまりにわたって撮り続けた写文集。写真と文章が濃密に結びついた稀有けうの本。〈2〉は第2次世界大戦中にナチが全ヨーロッパで犯した書物略奪の全貌ぜんぼうを明らかにする。ナチは記憶と歴史を支配するために手段を選ばなかった。〈3〉はノルウェー在住の著者が長年連れ添った夫を亡くした悲嘆の日々からきのこによって救われるまでをつづった私記。きのこはすごい。

坂井 豊貴(経済学者・慶応大教授)

〈1〉大木毅著『独ソ戦』(岩波新書、860円)

〈2〉タナカカツキ著『サ道』〈1〉~〈3〉(講談社、〈1〉、〈2〉610円、〈3〉630円)

〈3〉エリック・ポズナー、グレン・ワイル著『ラディカル・マーケット』(東洋経済新報社、3200円 安田洋祐監訳)

 〈1〉数千万人が落命した「絶滅戦争」。人類社会にここまで絶望的な惨禍が起こることに戦慄せんりつする。せめてこれに学ぶことは、今日の人類の義務であろう。〈2〉今年のサウナ人気を牽引けんいんしたのが本書。穏やかな会話と光る水の輝きが、読み手の心を穏やかに整えてくれる。〈3〉他人の住む住居でも、高値を払えばいつでも買い取れる所有制度。関心あるテーマには、2票を投じられる投票制度。未来社会の制度を劇的に提案。

山内 志朗(倫理学者・慶応大教授)

〈1〉古田徹也著『不道徳的倫理学講義』(ちくま新書、1000円)

〈2〉村井雅美著『もの想う こころ』(木立の文庫、2200円)

〈3〉井筒俊彦著『スーフィズムと老荘思想』上・下(慶応義塾大学出版会、各5400円 仁子寿晴訳)

 〈1〉不道徳であってこそ、倫理的、これは目から大ウロコ。その鍵が「運」ということにあることを説得的に論じる。倫理学の名著登場!〈2〉存在の祝福、無条件の受容、そういう恵まれた状況はありふれても、得がたい奇蹟きせきだ。傷ついた心たちはそれを感じ、訴える。繊細で美しい本だ。〈3〉井筒俊彦を代表する著作、翻訳不可能としか思えない名著が日本語になった。生きているうちに出会えたことを幸せに思う。感涙の書である。


宮部 みゆき(作家)

〈1〉ユニティ・ダウ著『隠された悲鳴』(英治出版、2000円 三辺律子訳)

〈2〉稲泉連著『宇宙から帰ってきた日本人』(文芸春秋、1650円)

〈3〉朝比奈あすか著『君たちは今が世界』(KADOKAWA、1500円)

 〈1〉ボツワナの小さな村で、現世利益を願って生けにえささげる「儀礼殺人」のために殺害された十二歳の少女。隠蔽いんぺいされていたこの事件の物証を、女子大生アマントルが偶然発見してしまう。果敢に真相解明に挑むアマントルの知恵と勇気とど根性に感服。〈2〉船外活動で宇宙とは「底のない闇」だと知ったというお話をはじめ、驚きがいっぱいのノンフィクション。〈3〉小学校の「教室というちっぽけな王国」の幸福と絶望を描いた新鮮な力作。

加藤 徹(中国文化学者・明治大教授)

〈1〉中島恵著『中国人は見ている。』(日経プレミアシリーズ、850円)

〈2〉鍵山秀三郎・竹内光弘・縄田良作著『トイレ掃除の奇跡』(致知出版社、1200円)

〈3〉大井昌靖著『初の国産軍艦「清輝」のヨーロッパ航海』(芙蓉書房出版、1800円)

 〈1〉日本人の日常や常識は、来日した中国人にとって驚きの連続。食文化、仕事、人づき合い、社会、日本人の中国観――中国人の戸惑いや感動から、日本の隠れた強みや、等身大の中国人の本音がわかる。面白くてためになるルポ。〈2〉広島から暴走族が消えた。若者の更生を信じた市民や警察、教育者によるトイレ掃除の力だった。感動の実話。〈3〉史上初めて日本人乗員だけの国産船で西洋まで往復した若手士官たちの実録。映画化を希望。


橋本 五郎(本社特別編集委員)

〈1〉平山周吉著『江藤淳は甦える』(新潮社、3700円)

〈2〉『全著作 森繁久彌コレクション第1巻 道―自伝』(藤原書店、2800円)

〈3〉岡義武著『明治政治史』上・下(岩波文庫、上巻1320円、下巻1200円)

 〈1〉は戦後を代表する評論家の最も身近にいた編集者による伝記文学の力作。人と作品と時代を三位一体で描き、筆致はあくまでも公平である。

 〈2〉は一流の役者だとは思いつつも、これほど味わい深い教養に包まれたユーモアのある文章家とは思わなかった。研鑽けんさんの日々があったのだろう。

 〈3〉は待望の文庫化。日本近代化のための苦闘の歴史がある。同じ著者の『転換期の大正』『山県有朋』などが次々文庫になったのはうれしい。

尾崎 真理子(本社調査研究本部客員研究員)

〈1〉川上弘美著『某』(幻冬舎、1600円)

〈2〉平野啓一郎著『「カッコいい」とは何か』(講談社現代新書、1000円)

〈3〉デイヴィッド・マイケリス著『スヌーピーの父 チャールズ・シュルツ伝』(亜紀書房、6000円 古屋美登里訳)

 〈1〉数々の人間に擬態する、無名のたましい「某」の遍歴。作者の想像力に軽やかに揺さぶられ、宇宙の果てまで連れて行かれた。傑作SF。〈2〉三島由紀夫が10年で消えると言った「カッコいい」は、民主主義と資本主義が交錯する現代に生きのびた。その理由を九鬼周造『「いき」の構造』等を引いて周到に説く。〈3〉米国人ジャーナリストはここまで容赦なく事実を掘り起こして評伝を書く。おおいに刺激を受けた。いずれもお正月休みにぜひ。

番外編(よみうり堂店主)

〈1〉今福龍太著『宮沢賢治 デクノボーの叡知』(新潮選書、1600円)

〈2〉山下泰平著『まいボコ』※長いタイトルの通称(柏書房、1800円)

〈3〉ソフィー・ハウザー&アンドレア・ゴンザレス著『ガール・コード』(Pヴァイン、2270円 堀越英美訳)

 〈1〉は宮沢賢治の未完の草稿を精読し、その小宇宙の核心にある「誰のものでもない希望」を現代に問い直す。画期的な賢治論。〈2〉は『「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本』。何だそれと思ったら書店にゴー!〈3〉はゲームのプログラミングを通して男性優位の社会に一石を投じた米国の女子高生2人組の実話。世界は新しい可能性に満ちている。

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