読書委員が選ぶ「2021年の3冊」<上>

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 「本よみうり堂」では、読書委員20人が、毎月400冊を超える新刊本に目を通します。書評すべきだと思う本は全員で回覧して議論し、検討を重ねた上で紹介しています。2021年の最後に、今年出た本の中から、これはと思う3冊を挙げてもらいました。

飯間 浩明(国語辞典 (へん)(さん) 者)

〈1〉サンキュータツオ著『国語辞典を食べ歩く』(女子栄養大学出版部、1870円)

〈2〉細川英雄著『自分の〈ことば〉をつくる』(ディスカヴァー携書、1100円)

〈3〉安田浩一文、金井真紀文・絵『戦争とバスタオル』(亜紀書房、1870円)

 〈1〉「食」に関する項目を中心に、国語辞典の説明の仕方や辞書ごとの違いを論ずる。私の携わる『三省堂国語辞典』最新版にも役立ちました。

 〈2〉論文・レポートを書くと、どこか借り物になってしまう人にぜひ。自分の「好き」を基にテーマを発見し、文章を練る極意が分かります。

 〈3〉「あの戦争」を知るために、まずはお風呂に入ろう。タイや沖縄、韓国などで湯船に かり、人に話を聞いて、平和を考える異色ルポです。


柴崎 友香(作家)

〈1〉中村佑子著『マザリング』(集英社、2420円)

〈2〉アンナ・バーンズ著『ミルクマン』(河出書房新社、3740円 栩木玲子訳)

〈3〉荒井裕樹著『まとまらない言葉を生きる』(柏書房、1980円)

 〈1〉妊娠や育児などの体験と対話からこれまで語られてこなかった弱いものに寄り添う経験の言葉を探る。〈2〉1970年代北アイルランドでの少女時代の複雑な状況と心情をひたすらに言葉にしていく小説。〈3〉日常の中で他者を抑圧するような言葉に あらが い、現状を解きほぐすために考え続ける1冊。速くて効率のいい「解答」ではなく、これまで言葉にされてこなかった感覚や状況を手探りしながら書くことの重要性を実感した1年だった。

加藤 聖文(歴史学者・国文学研究資料館准教授)

〈1〉塩川伸明著『国家の解体』(東京大学出版会、4万1800円)

〈2〉高橋原、堀江宗正著『死者の力』(岩波書店、2640円)

〈3〉鈴木忠平著『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文芸春秋、2090円)

 〈1〉は、ソ連崩壊の過程を 緻密ちみつ に検証した大著。超大国はなぜもろくも解体したのか。著者の衰えぬ知力と意志は、研究者の手本。今年は東日本大震災から10年。〈2〉は、津波被災地の「霊」体験に宗教学者が迫る。現代社会における死と宗教を考えさせられる好著。〈3〉は、人材を生かし組織を束ねて勝ち続けることの難しさと指揮官の孤独を見事に描き出す。人間ドラマとしても読み応えがあり、野球ファンでなくても一読をお勧めする。

長田 育恵(劇作家)

〈1〉アネッテ・ヘス著『レストラン「ドイツ亭」』(河出書房新社、3190円 森内薫訳)

〈2〉ジュリア・フィリップス著『消失の 惑星ほし 』(早川書房、2420円 井上里訳)

〈3〉梨木香歩著『ここに物語が』(新潮社、1760円)

 〈1〉はアウシュヴィッツ裁判を取り扱った物語。主人公が 辿たど り着く事実の重さを我が事のように追体験した。〈2〉はカムチャツカ半島が舞台。美しく研ぎ澄まされた構成は小説を読む喜びに満ちて。幼い姉妹の失踪を背景に描かれる十三人の女性の素描。文章の 怜悧れいり なカメラは彼女たちの内面をありのまま映し出す。〈3〉は本を愛する著者の、豊かな思考に同行させてもらえる幸福。本書に導かれ読書の旅に出たくなる、一生 そば に置きたい本。

南沢 奈央(女優)

〈1〉西加奈子著『夜が明ける』(新潮社、2035円)

〈2〉朝井リョウ著『正欲』(新潮社、1870円)

〈3〉佐藤愛子著『九十八歳。戦いやまず日は暮れず』(小学館、1320円)

 今年最も心揺さぶられた小説〈1〉。「俺」と「アキ」の高校時代から33歳までの日々を通して、虐待、貧困、過重労働など現代社会の問題を描く。人物と呼吸が同期して苦しくなるほど、真実味と切実さがある。〈2〉でも自分の奥底にあるものと向き合わされた。自分の欲望は正しいのか。愚かさも含めて全ての人を肯定してくれる小説。こんな生き方もある。自身の姿勢と言葉で教えてくれる〈3〉。断筆を決意した理由が著者らしく、覚悟を見た。

苅部 直(政治学者・東京大教授)

〈1〉リービ英雄著『天路』(講談社、1870円)

〈2〉ジョルダン・サンド著『東京ヴァナキュラー』(新曜社、3960円 池田真歩訳)

〈3〉高森明勅著『「女性天皇」の成立』(幻冬舎新書、946円)

 この年末、喪中欠礼の葉書をいつもより多く頂いた。高齢の親が亡くなった場合が多い。〈1〉の小説の主人公も、母を失った悲しみを抱えながら、チベット高原の聖地をさまよい歩いてゆく。〈2〉は町なみや建物など、地域の記憶の保存をめぐる歴史を概観した本。東京という都市の戦後史を、新たな視点から見せてくれる。〈3〉は皇室の存続に関する、歴史論、制度論の両面でよく考えられた提言。政策関係者もぜひ読んでほしい。

佐藤 信(古代史学者・東京大名誉教授)

〈1〉森先一貴著『日本列島四万年のディープヒストリー』(朝日選書、1540円)

〈2〉古市晃著『倭国 古代国家への道』(講談社現代新書、1210円)

〈3〉高橋昌明著『 都鄙とひ 大乱』(岩波書店、3080円)

 日本史関係で書評で紹介できなかった書三つ。いずれも独自のテーマに挑み、史資料をふまえた新しい研究を平明に語る。〈1〉は、列島の先史人が自然と向き合って文化的進化を遂げた様子を考古学から探り、現代の環境問題に及ぶ。〈2〉は複数王族が競合する5世紀の状況から王統が統合する過程と、中央支配勢力と地域社会との関係を展望する。〈3〉は全国を戦場とし多数の死者が出た源平合戦の社会激動の全体像を、スケール大きく描く。

稲野 和利(ふるさと財団理事長)

〈1〉リチャード・オスマン著『木曜殺人クラブ』(ハヤカワ・ポケット・ミステリ、2310円 羽田詩津子訳)

〈2〉吉永陽一著『空鉄 諸国鉄道空撮記』(天夢人、2200円)

〈3〉石戸諭著『ニュースの未来』(光文社新書、946円)

 書評未掲載の3冊。〈1〉英国の高級高齢者用施設に暮らす4人が、警察と協力し時には出し抜いて、殺人事件の謎に挑む。登場人物が特徴的で内容も奥深い傑作。〈2〉鉄道を空から見ると普段見慣れない様相が出現する。印象的な写真の数々。路線の平面交差や登山電車のカーブの形状などが面白い。〈3〉良いニュースの五大要素とは、謎、驚き、批評、個性、思考とされる。複雑な問題にバイアスなく向き合おうとする著者の知的姿勢に共感。

梅内 美華子(歌人)

〈1〉湯浅誠著『つながり続けるこども食堂』(中央公論新社、1760円)

〈2〉中村桂子著『 る 宮沢賢治で生命誌を読む』(藤原書店、2420円)

〈3〉藤沢周著『世阿弥最後の花』(河出書房新社、2200円)

 〈1〉コロナ禍で心配したことの一つがこども食堂。私たちはこれからも環境の変化に さら される。世代を超えた交流・連携に私も携わりたいと思った。〈2〉「中村桂子コレクション」7。宮沢賢治の童話から共生の可能性を考える。善悪、優劣の思考は人間が振るっているものだと改めて痛感。〈3〉流刑地佐渡で世阿弥はいかに過ごしたか。謡曲や『風姿花伝』『花鏡』などの名言がちりばめられ巨大な能楽師の身体と思想が顕現する圧巻の書。

橋本 倫史(ノンフィクションライター)

〈1〉森まゆみ著『聖子 新宿の文壇BAR「風紋」の女主人』(亜紀書房、1980円)

〈2〉中部博著『プカプカ 西岡恭蔵伝』(小学館、1980円)

〈3〉岸政彦編『東京の生活史』(筑摩書房、4620円)

 今年はライフヒストリーを つづ った労作がいくつか出版された。文壇バー「風紋」を60年にわたり営み、太宰治の小説「メリイクリスマス」のモデルとなった女性の半生を描く『聖子』。代表曲「プカプカ」で知られるシンガー・ソングライターの一生を丹念に追った西岡恭蔵伝。150人の聞き手が、150人の生活史を静かに聞き取った1216 ページ の大著『東京の生活史』。年末年始は、誰かの人生に思いを巡らせ過ごしたい。

栩木 伸明(アイルランド文学者・早稲田大教授)

〈1〉マリオ・バルガス=リョサ著『ケルト人の夢』(岩波書店、3960円 野谷文昭訳)

〈2〉黒川創著『旅する少年』(春陽堂書店、2860円)

〈3〉大平雅巳著『描かれた器 絵画と文学のヨーロッパ陶磁』(平凡社、3080円)

 〈1〉ペルー生まれのノーベル賞作家が実在のアイルランド人を主人公に描く叙事詩的な小説。コンゴの植民地化に加担し、後にその罪に気づいて告発し、やがて反逆罪で絞首刑となった外交官の奮闘と挫折が世界史のうねりのなかで語られる。〈2〉できるだけ長く一人旅を続けたかった、半世紀前の少年の記録。1970年代中葉の社会・文化が感動的に よみがえ る。〈3〉脇役にも歴史あり。片隅に描かれた陶磁器の素性を調べ上げた著者に脱帽。

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