読書委員が選ぶ「2021年の3冊」<下>

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 「本よみうり堂」では、読書委員20人が、毎月400冊を超える新刊本に目を通します。書評すべきだと思う本は全員で回覧して議論し、検討を重ねた上で紹介しています。2021年の最後に、今年出た本の中から、これはと思う3冊を挙げてもらいました。

木内 昇(作家)

〈1〉カズオ・イシグロ著『クララとお日さま』(早川書房、2750円 土屋政雄訳)

〈2〉青山文平著『泳ぐ者』(新潮社、1760円)

〈3〉西川栄明著『板目・柾目・木口がわかる木の図鑑』(創元社、3740円)

 〈1〉大切な存在に出会うということは、喪失の恐怖と戦うことと同義なのだろう。AF(人工親友)に課せられた真の役目を知ったとき、人と人との つな がりに宿る非情な宿命に思いを致さずにはいられなかった。〈2〉時代物の 雛形ひながた らず、自在に飛躍しながら、江戸の人々の生き方を描ききる氏の小説にはいつも魅せられる。本作も出色。〈3〉日本の有用種101種の断面を原寸大で掲載するという素晴らしい試み。木フェチにはたまりません。


国分 良成(国際政治学者・前防衛大学校長)

〈1〉堀川惠子著『暁の宇品 陸軍船舶司令官たちのヒロシマ』(講談社、2090円)

〈2〉佐橋亮著『米中対立 アメリカの戦略転換と分断される世界』(中公新書、1034円)

〈3〉天日隆彦著『歴史認識を問う』(晃洋書房、2640円)

 〈1〉は今年取り上げた書評のベスト。 兵站へいたん のような下支えの仕事や民間を軽視したことが戦前の軍隊の失敗原因。自衛隊にとっても重要な教訓だ。

 〈2〉は今年取り上げられなかったが、現代世界の中心テーマである米中関係の歴史と現状を簡潔に論じた入門書兼 啓蒙けいもう 書。

 〈3〉も取り上げられなかったが、歴史認識問題に 真摯しんし に向き合った元読売論説委員が、東京裁判や慰安婦などの問題を改めて直視し、バランスよく持論を展開している。

中島 隆博(哲学者・東京大教授)

〈1〉森まゆみ著『路上のポルトレ――憶いだす人びと』(羽鳥書店、2420円)

〈2〉納富信留著『ギリシア哲学史』(筑摩書房、4840円)

〈3〉奥村正博著『「現成公按」を現成する 『正法眼蔵』を開く鍵』(春秋社、3520円 宮川敬之訳)

 〈1〉は最初に書評した本で思い入れがあります。森まゆみさんが無名有名を問わず、谷根千 界隈かいわい を中心に出会った方々の「ポルトレ」(肖像)を描いたエッセー集です。

 〈2〉は哲学において『始まり』を始めることを論じたもの。ギリシアにとってのエジプトの意義も再確認されています。

 〈3〉は米国で活躍されている曹洞宗の奥村正博さんの英文著作の翻訳です。世界基準の道元解釈の 醍醐だいご 味を味わっていただきたいと思います。

瀧澤 弘和(経済学者・中央大教授)

〈1〉山内志朗著『わからないまま考える』(文芸春秋、1980円)

〈2〉伊藤亜紗著『きみの体は何者か』(筑摩書房、1210円)

〈3〉アクセル・ホネット著『社会主義の理念』(法政大学出版局、3520円 日暮雅夫、三崎和志訳)

 〈1〉エッセイ集だが、取り上げられる問いは深い。過去の自分との「約束」を探索しつつ、後ずさりしながら未来に向っていくという描像は、意味を求めて生きる人間をリアルにとらえている。〈2〉自分の身体が思い通りにならない事態にどのように対処したらいいのか、自身の体験からときほぐしてくれる好著。〈3〉は社会主義の理念を経済一辺倒なものから救い出し、現代化する。社会主義は時代遅れという固定観念から解放してくれる。

小川 さやか(文化人類学者・立命館大教授)

〈1〉ヤン・プランパー著『感情史の始まり』(みすず書房、6930円 森田直子監訳)

〈2〉中村良夫著『風土自治――内発的まちづくりとは何か』(藤原書店、3630円)

〈3〉ピーター・スコット・モーガン著『NEO HUMAN』(東洋経済新報社、1870円 藤田美菜子訳)

 〈1〉は、書評した本のなかで印象に残った本。感情の普遍主義と社会構築主義との対比を題材にした本書を契機に感情史の奥深さを実感。〈2〉は、風土を引き継ぎ育ててきた民衆の無意識の公共意識としての「風土自治」を基盤にまちづくりを問いなおす。風土論の面白さを再認。〈3〉は、運動ニューロン疾患患者でロボット工学者による人類初フルサイボーグ化のノンフィクション。人間の可能性にも著者の人間性にも勇気づけられる。

宮部 みゆき(作家)

〈1〉佐藤究著『テスカトリポカ』(KADOKAWA、2310円)

〈2〉熊倉献著『ブランクスペース』1・2(ヒーローズ、各715円)

〈3〉澤村伊智著『ぜんしゅの跫』(角川ホラー文庫、704円)

 〈1〉は「よく生きる」ためには物語を必要とする人間の さが を、中米麻薬カルテルのボスという大悪党を通して描いてしまった 希有けう な小説。〈2〉はコミック。二人の女の子が登場する青春SFで、一人は無から有を創造できる超能力者。この設定からは思いもつかぬ不穏な方向へ話が転がって、さて結末はどうなるのか。〈3〉は中短編集で、表題作には著者の看板キャラクターである比嘉姉妹が登場する。いきなり文庫で読めるなんて 贅沢ぜいたく です。

仲野 徹(生命科学者・大阪大教授)

〈1〉岸田奈美著『もうあかんわ日記』(ライツ社、1650円)

〈2〉和田静香著『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』(左右社、1870円)

〈3〉最相葉月著『辛口サイショーの人生案内DX』(ミシマ社、1650円)

 著者と対談したので取り上げなかった3冊、どれもむっちゃおもろい!〈1〉不運な日常生活を明るく つづ る特技の持ち主、岸田奈美さんの日記。不謹慎と思いながらも、つい吹き出してしまいます。〈2〉相撲ライターの和田静香さんが、立憲民主党の小川淳也衆議院議員に、どすこい精神でぶつかり稽古のように挑んだインタビューの本。ど迫力!〈3〉読売新聞の読者にはお 馴染なじ み最相葉月さんの人生案内。DXはデラックスの略です、念のため。

橋本 五郎(本社特別編集委員)

〈1〉芳賀徹著『文明の くら 』「I静止から運動へ」「2夷狄の国へ」(中央公論新社、I3850円、23960円)

〈2〉五百旗頭真監修『評伝 福田赳夫』(岩波書店、5280円)

〈3〉木村伊量著『私たちはどこから来たのか 私たちは何者か 私たちはどこへ行くのか』(ミネルヴァ書房、4620円)

 〈1〉は幕末から明治に至る 豊穣ほうじょう な文化を人と作品でたどる。そこに「愛」がある。長男によるあとがきは亡き父徹への尊敬と愛情に満ちている。

 〈2〉は政治家評伝の傑作と言っていい。人物も治績も多面的にとらえて初めて真実が浮かび上がってくる。そこにも「愛」がなければならない。

 〈3〉は新型コロナウイルスを含め現代が直面する文明史的課題をこれほど包括的に深くとらえた書も珍しい。ここにも人間への「愛惜」がある。

尾崎 真理子(早稲田大教授・本社調査研究本部客員研究員)

〈1〉平林敏彦著『言葉たちに 戦後詩私史』(港の人、2420円)

〈2〉藤井基二著『頁をめくる音で息をする』(本の雑誌社、1540円)

〈3〉川野里子編『葛原妙子歌集』(書肆侃侃房、2200円)

 3冊共、先人の仕事を伝える労作。〈1〉1924年生まれの詩人による、詩と回想の散文。重みのあまり、すぐには書評を書けなかった。表題詩の最後を紹介する。〈行く手に待つ死者たちにおくる/いとおしい一度かぎりの言葉はあるか〉〈2〉広島県尾道市の深夜だけ開店する古書店。中也に心酔する若き店主の独白は、コロナ下の学生に響いた感触があった。〈3〉不世出の昭和の歌人。今後はこうした未知の世界をひもといてみたい。

番 外 編(よみうり堂店主)

〈1〉町田そのこ著『星を掬う』(中央公論新社、1760円)

〈2〉大島真寿美著『結 妹背山婦女庭訓 波模様』(文芸春秋、1870円)

〈3〉ルトガー・ブレグマン著『Humankind 希望の歴史』上・下(文芸春秋、各1980円 野中香方子訳)

 〈1〉親に恵まれなかったから不幸になったという説明は分かりやすいが、その“感傷”を乗り越え幸せになる道もある。そう気づかせてくれる小説。〈2〉も小説。江戸時代に文楽に魅せられた者たちが描かれる。苦悩もあるはずなのに軽やかで楽しげ。読んでいると力が湧いてくる。〈3〉は人間の本性は残酷という説に根拠をもって反論するノンフィクション。「人間捨てたもんじゃない」と自信を持てる本に来年もたくさん出会えますように。

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