江戸後期 小藩舞台の『跳ぶ男』…青山文平さん

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能で運命切り拓いた少年

2年がかりの労作だった。「どうすれば自分の目指す所にたどり着けるのか。仕込みがすごかったので、手探りどころか、肉体労働でもありました」
2年がかりの労作だった。「どうすれば自分の目指す所にたどり着けるのか。仕込みがすごかったので、手探りどころか、肉体労働でもありました」

 青山文平さん(70)の『跳ぶ男』(文芸春秋)は、江戸時代後期に、藩主の“身代わり”となった15歳の少年を巡る長編小説。能によって、己と、藩の運命を切りひらこうとする姿を描いた意欲作だ。

 「銀色のアジを書きたい」

 3年前に直木賞に決まった時に、記者会見で語った言葉だ。大衆魚であっても、生きている魚の色を小説で表現したい――。その姿勢は、文化が成熟した江戸時代後期を主な舞台として、英雄や有名人ではなく、時代の流れや運命に翻弄ほんろうされる武士を題材とした小説に結実してきた。

 今回の作品は一見すると、異色に映るかもしれない。主人公のたけるは藩主の身代わりとして能を舞い、江戸城に登城する場面さえもあるからだ。能楽師に取材を重ね、能に熱心に取り組んだ大名の関係性も入念に調べた。「方法論が今までと違ったので、2年もかかってしまった。表面上は変わったように思えても、銀色のアジの1匹を書いたもの。人間がもがく姿を描きたい」

 舞台となるのは土地が狭く、墓地を作る余裕さえない藩だ。能を演じる道具役の家に生まれた剛は、父の後妻に疎まれて居場所を失い、畏友の保に助けられながら、河原で修業を続けていた。しかし、俊才として名高かった保は藩校での刃傷にんじょう沙汰で腹を切る。

 それから1年、稽古を続けていた剛は、目付の又四郎から、若くして急死した藩主の身代わりを務めるように頼まれる。藩は能に熱心で、代々の藩主も能を演じていた。保が生前、〈想いも寄らぬことをやる〉と剛を役者として評価していたことによる指名だった。剛は藩主を演じながら、他の藩で催される能の舞台に上がることになる。

 能を通じて将軍と関係を作り、藩を安定させるよすがにしようとする又四郎たちの思惑。死者の埋葬さえままならない貧しい藩を「ちゃんとした墓参りができる国にする」という保の遺志。様々な思いを背負いながら、剛は能舞台に上がる。自らを評価した保の真意を知るためには、舞うしかないのだ。

 「生き延びるために技術を身に付けていた剛が、見えない美を見えるものにする才能がある者の務めを知って、保の言葉にたどり着く。作中では書きませんでしたが、剛は天才だと思っています」。藩主を演じた末に至る剛の境地に、胸が熱くなる。

 早稲田大学卒業後に出版社に入り、企業広告のコピーライターに。「広告は読まれない、信用されない。その壁を突破するのは、レトリックではなくて、新鮮な『窓』を提供するコンセプトなんです。その技術を培った」。退社後に純文学の新人賞を受けたが、一度は筆を折り、還暦を過ぎてから時代小説で再デビュー。2016年には直木賞も受けた。手当たり次第に史書や資料を読んで素材を探し、物語が立ち上がってくるのを待つスタイルは、時代小説を書き始めた頃から変わらない。

 本作の刊行を前に古希を迎えたが、「いい小説を書くというのは常に変わらない命題ですから、年齢は関係ない」ときっぱりと語った。「今まで誰も書いたことがないもの、読んだことがないものを追求するのは当たり前のことだと思っています。年齢的に書く回数も限られているから、同じようなものを書いてたまるか、と」。次第に口調が熱を帯びた。(文化部 川村律文)

 あおやま・ぶんぺい 1948年、横浜市出身。出版社での勤務やフリーライターを経て、『白樫の樹の下で』で松本清張賞。『鬼はもとより』で大藪春彦賞、『つまをめとらば』で直木賞を受けた。著書に『半席』『励み場』など。

◎お気に入り

ロードレーサー
ロードレーサー
トレッキングポール
トレッキングポール

 ★ロードレーサー 有名ブランドの「東叡社」にフルオーダーしたものです。注文から2年たって手に入れることができました。工芸的な美しさがあって、本当に素晴らしい。疲れると小説を書くのに支障が出るので、最近はなかなか乗れていませんが……。

 ★トレッキングポール 街を知るには歩くのが一番いい。上半身の運動にもなるので、ポールウォーキングをやっています。自分の年齢以上に歩いてしまうので、自重しないといけないですね。

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177263 0 ニュース 2019/01/31 05:20:00 2019/01/31 05:20:00 2019/01/31 05:20:00 青山文平さん https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190121-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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