『ある男』 平野啓一郎さん

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過去は変えられるか

平野啓一郎さん
平野啓一郎さん

 京大在学中に芥川賞を受賞した『日蝕(にっしょく)』でデビューしてから20年。今作は、重い宿命と向き合う男たちの姿を描く。「愛にとって過去とは何か」を問うミステリータッチの長編だ。

 「過去を隠し、他人の過去をかたって誰かを愛した時、そこにある愛は本物なのか偽物なのかを書きたかった」

 物語は、弁護士の城戸が、里枝という女性から「ある男」の相談を受けるところから始まる。ある日突然事故で命を落とした夫は、名前や過去を偽って人生を送っていた。死んだ夫は何者だったのか。

 真実を知った里枝はショックを受け、亡き夫への愛を自問する。過去とどう折り合いをつけるか。過去は変えられるのか――。大人の愛を描いた前作『マチネの終わりに』でも取り上げたテーマだ。

 「多くの人は過去に拘束されながら生きている。特に今はSNSを通じて過去の人間関係に縛られ、面倒だと思うことはあります」。執筆にあたっては、林業関係者や在日3世など様々な人を訪ねた。

 中年になり、妻との関係や自身のルーツを振り返った城戸は、「ある男」の人生をたどる中で自分を見つめ直す。「ある男」もまた、他人の人生に思いをはせ、共感の輪は何層にも広がってゆく。

 ここには「人はなぜ物語を求めるのか」という著者の関心が込められている。「読者も物語の人物に共感すると、自分の苦しみの見え方が変わる。そこに小説の存在理由がある」

 今年43歳になった。時代を映し出す作品を発表し続け、「よくも悪くもこれ以上いい作品は書けなかった」との言葉からは充実感がにじむ。「現代の読者が何に満たされ、何に満たされていないのかを考えることで作品が豊かになる。これからも時代を読者と共有していきたい」(文芸春秋、1600円)

 佐伯美保

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44127 0 著者来店 2018/10/16 05:20:00 2018/10/16 05:20:00 2018/10/16 05:20:00 「ある男」を刊行した作家の平野啓一郎さん(19日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181009-OYT8I50059-T.jpg?type=thumbnail

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