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生殖医療の進歩は目覚ましい。日本では倫理的観点から、日本産科婦人科学会が自主規制しているが、海外では体外受精させた卵子を別の女性に移して産んでもらう代理出産を認める国もある。「女性の貧困化が進み、日本の女性が代理母になるビジネスが行われるかもしれない」。その不安から書き始めた小説だ。
北海道から上京し、非正規の仕事につき困窮した生活を送る29歳のリキは、金のために代理母をしないかと誘われる。資産家の母を持ち東京近郊でバレエを教える43歳の基は、妊娠は難しいといわれた妻の悠子に代理母出産を頼んでも子供が欲しいと訴える。
<貧しい女の人が子宮を売る>システムは資本主義社会のビジネスとして割り切れるのか、女性の尊厳を奪う経済格差を利用した搾取なのか。登場人物は迷い議論を繰り返す。「恐ろしいほど発達した生殖医療に、人間の精神も日本の法律も追いついていない。私自身、結論が出なかった」と複雑な思いを明かす。
「卵の本質は何か」との冒頭の問いが物語の底を流れる。「卵子の数は決まっているし、いずれ生殖機能も失われる。卵は女性の体が切迫したものを持っている悲しさの象徴でもあります」。そして、江戸時代の大奥や春画の話題も登場し、読者は性と生殖の意味を考えずにいられない。
大学時代、女性解放運動に関心を抱き、作家デビュー後も『OUT』『ナニカアル』など差別や時代に
波乱の物語は、ある代理母出産で終わる。その子は誰のものか。「誰も分からない、だから子供に聞いてみたい」。今、別の小説で、不自然な状況で出生した子供の成長した姿を描き始めている。(集英社、2090円)佐藤憲一