評・奈良岡聰智(政治史学者・京都大教授)

『裏切られた自由 上・下』 ハーバート・フーバー著

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書評(25日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影
書評(25日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影

後任大統領の外交批判

 第三一代米国大統領ハーバート・フーバー(在任一九二九~三三年)の回顧録である。一九三二年の大統領選に敗れた後、彼は後任のフランクリン・ルーズベルトのニューディール政策や親ソ的傾向を批判し続け、第二次世界大戦への参戦にも反対した。しかし米国は参戦し、ドイツや日本に対抗するためソ連と手を組んだ。フーバーがこの間の経緯について、政敵ルーズベルトを徹底的に批判したのが本書である。晩年に約二〇年かけて完成され、日本語版で一三〇〇ページ近くに及ぶ大著である。

 著者は、第二次世界大戦勃発の原因を、英米の外交の失敗に帰している。日米開戦についても、米国の挑発によって引き起こされたと言ってはばからない。米国は独ソ戦の行方を見守っていればよかった、日本は放置しておけばやがて自壊したはずだ、というのがフーバーの見方である。こうした主張ゆえに、彼は不干渉主義(孤立主義)、歴史修正主義の代表的論者と見なされている。

 ルーズベルトに多くの錯誤があったのは事実で、それを舌鋒鋭く指摘した本書の記述は刺激的である。とはいえ、独断的な記述も多く、鵜呑うのみにするのは危険だ。「ポーランド問題でナチスと妥協していれば戦争は起きなかった」という解釈は推論に過ぎないし、一九四一年に日米間の緊張緩和が可能だったかどうかは、見方が分かれるところだろう。本書の原著は二〇一一年に刊行されたが、大きなセンセーションを起こさなかったことにも留意すべきである。

 本書に関心を持つ読者には、ぜひ同時代人の他の著作と読み比べ、多様な歴史観を養って欲しいと思う。独ソの脅威に直面した米国のジレンマについては、ジョージ・ケナン『アメリカ外交50年』(岩波現代文庫)に詳しい。フーバー、ルーズベルト両政権の閣僚ヘンリー・スティムソンの回顧録も昨年翻訳された(国書刊行会)。第二次世界大戦の総括は、今なおアクチャルなテーマである。G・H・ナッシュ編、渡辺惣樹訳。

 ◇Herbert Hoover=1874~1964年。ハーディング、クーリッジ政権で商務長官を務めた後大統領に。

 草思社 各8800円

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2666 0 書評 2018/01/15 05:22:00 2018/01/15 05:22:00 書評(25日、東京都千代田区で)=栗原怜里撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180109-OYT8I50020-1.jpg?type=thumbnail

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