『ゲーム理論はアート』 松島斉著

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(9日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影
(9日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影

社会事象の「なぜ」説明

 バブルと差別。一見異なるこれらの共通点は「同調」である。たとえば自分は仮想通貨に価値があるとは思わないが、他の人々は価値が高いというから、それに従おう。自分は特定民族の排斥が正しいとは思わないが、他の人々はそれが正しいというから、それに倣おう。同調の連鎖が起こるとき、バブルは膨れ、差別がはびこる。同調の圧力は後になるほど高まるので、バブルも差別も出来るだけ早い段階で潰すのが大切だ。

 人々の細かな意思決定が積み重なって、大きな社会事象が起こってゆく。ゲーム理論は、そうした事象を、個々の意思決定に解きほぐして分析する学問だ。いまや経済学では必須の分析ツールとなっており、社会科学全般でも広く活用されている。ゲーム理論は数学を多用するが、本書に数式はほとんど登場しない。代わりに著者がゲーム理論を使って、さまざまな事象の「なぜ」を語ってゆく。語る対象はバブルや差別から、サッカーやテロ対策まで多岐にわたる。著者独特の語り口はざっくばらんで、余談や脱線も多く、ときに愚痴も交じる。

 とりわけ著者が関心を払うのは制度設計だ。近年の経済学ではゲーム理論に基づく制度設計論(マーケットデザイン)が進展しており、実用化もめざましい。いまや制度はゲーム理論で精緻せいちな設計図を描く時代なのだ。電波資源の効率化を促す周波数オークションの導入や、通信速度の消耗戦にならない金融市場への改善は、とくに真剣に検討されるべきものだろう。この分野を長く牽引けんいんしてきた著者は、学知の活用に消極的な日本の政策当局に批判的だ。

 本書には著者の設計による「アブルー・松島メカニズム」の簡単な解説が含まれているが、これは制度設計論における記念碑的な成果である。このような本書はゲーム理論の標準的な入門書ではないが、ここから垣間見える学問世界は豊穣ほうじょうだ。同調など気にも留めない著者による、自由闊達かったつな本書こそがアートのようである。

 ◇まつしま・ひとし=東京大教授。専門はゲーム理論。国際学会エコノメトリック・ソサエティー終身会員。

 日本評論社 2000円

無断転載禁止
8311 0 書評 2018/02/26 05:26:00 2018/02/26 05:26:00 (9日、読売新聞東京本社で)=稲垣政則撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180219-OYT8I50053-1.jpg?type=thumbnail

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