『それまでの明日』 原 りょう著
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リアルな「詩情」の魅力
前作『愚か者死すべし』より十四年。探偵・沢崎が帰ってきた。本書が作者のデビュー三十周年記念作品でもあることを踏まえると、作中の沢崎が五十代になっていることをしみじみと
前作では開巻早々に沢崎が狙撃事件に遭遇してびっくりしたけれど、今回はシリーズの常の形に戻り、物語は
今作でも、「沢崎のいる東京」に登場してくる人物たちの造形は豊かで確かだ。謎の中心である依頼人はもちろん、金融会社に居合わせた(だけの)派手な身なりの女性や、そこである騒動を起こす犯人の一人、巡り合わせで沢崎を手伝うようになる外見も中身もハンサムな青年、こんなところで寝てないでよぉというホームレス。みんなリアルであると同時に、現実にはない詩情を身にまとっている。この「詩情」こそが沢崎シリーズの魅力で、それを醸し出しているのが文章の力だ。硬質でありながら無機質ではなく、ウィットに富んだ比喩に
◇はら・りょう=1946年生まれ。88年『そして夜は甦る』でデビュー。89年『私が殺した少女』で直木賞受賞。
早川書房 1800円