『死の島』 小池真理子著

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15日付書評B面大評中『死の島』(7日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影
15日付書評B面大評中『死の島』(7日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影

いかに生を終えるか

 「心身の不自由は進み、病苦は堪え難し。脳梗塞こうそくの発作に遭いし以来の江藤淳は形骸に過ぎず。自ら処決して形骸を断ずる所以ゆえんなり」

 19年前の評論家江藤淳の自殺は、深い覚悟を伴う「処決」という言葉とともに、多くの人に大きな衝撃を与えた。死は避けられない。ならば、いかにその時を迎えるか。生きている人間にとって永遠の課題である。

 澤登志夫は4年前に出版社を辞め、東京文芸アカデミー小説講座の講師となったが、まもなくがんが発覚した。ステージ4の腎細胞癌で骨にまで転移、69歳を機に引退する。その直後、かつての恋人、三枝貴美子の妹の訪問を受ける。

 膵臓すいぞう癌の貴美子は延命治療を拒み、在宅で従容として死に赴き、澤に一冊の本を渡すよう依頼した。『ベックリーン 死の島』と題した本には、「死の島」のカラー図版が入っていた。生き物の気配のない死の島に向かって、一そうの小舟がゆっくりと水面を進んでいる。舟には白いひつぎが載せられ、静寂に包まれた島の霊廟れいびょうに安置されようとしている。

 「死の島」に己の姿を重ね合わせようとする澤。48歳の時に離婚、一人娘はいるが、もう何年も会っていない。蛇蝎だかつのごとく憎い相手を見る目で見られた記憶しかない。「一条の光」ともいうべきは、講座生の宮島樹里だ。筆舌に尽くしがたい体験を「抹殺」という小説にまとめた樹里は澤を深く尊敬、澤の力になりたいと思う。樹里は澤にとって、哀れな最期を迎える男への「神の特別の温情」だったのだろう。

 三島由紀夫、川端康成、江藤淳らの死に「自らを決した」というしかない「自決」の姿を見る澤は、決して樹里を巻き込んではいけないと自らに課しながら、ひそかに計画を立てる。これ以上の種明かしは御法度である。読み終わり、自分だったらどうするかと改めて自らに問うとともに、死に臨んで最も大切に思う人への配慮に満ちていることに、深い安堵あんどを感じた。

 ◇こいけ・まりこ=1952年東京都生まれ。作家。代表作に『恋』『虹の彼方』『無花果の森』ほか。

 文芸春秋 1700円

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17191 0 書評 2018/04/23 05:27:00 2018/04/23 05:27:00 15日付書評B面大評中『死の島』(7日、東京都千代田区で)=松本拓也撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180416-OYT8I50016-T.jpg?type=thumbnail

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