『日本統治下の朝鮮』 木村光彦著

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『日本統治下の朝鮮』(14日、本社で)=吉川綾美撮影
『日本統治下の朝鮮』(14日、本社で)=吉川綾美撮影

統計に基づき実態探る

 「日本統治下の朝鮮」という表題は、アカデミズムに属さない歴史研究者であった山辺健太郎による著書(岩波新書、一九七一年)と同じであるが、これには明確な意図がある。日本による植民地支配のもとでは、民衆が権力によってきびしく監視されただけでなく、農民たちは貧しい生活を強いられ、会社の設立も認められなかった。そうした貧困と抑圧の世界として日本支配の時代を描き、その苛酷かこくさを告発する。山辺の本はそうした定番書であった。

 これに対して木村光彦は、風説や当事者の記憶に基づく一面的な判断をしりぞけ、統計の数字から明らかな情報に即しながら、植民地支配下の経済の実態を明らかにする。しばしば、朝鮮人による米の消費量が減ったことを示す戦前のデータを根拠に、社会のはげしい窮乏化が推測され、その見解が韓国の歴史教科書でも踏襲されている。しかし本書によれば、調査者自身がその後に数字を修正しているし、最近の研究によれば消費量は大して減少していない。

 それどころか、農民たちが主体的な努力を通じて生産を拡大し、朝鮮人による企業の設立も実際には多く見られ、工業化が急速に進んで、経済は順調に成長していた。その現実を木村は明らかにする。窮乏化する植民地のイメージは、一九四〇年代の経済統制と戦時動員の時代像を、過去にまで延長することで作られたとさえ言えるのではないか。

 ただしよくある韓国批判本のたぐいではない。数値から明らかになる実態の指摘という姿勢を保ち、また同時に朝鮮人の民族的尊厳を損なう政策がとられたことについても、指摘を忘れていない。

 戦時中、半島北部に軍事工業施設が整備され、ウランの採掘も試みられたことが、現在の北朝鮮による核兵器開発の基礎をなした事実にも、本書は触れている。植民地支配の終焉しゅうえんから七十年以上がすぎ、その功罪を落ち着いて議論できる時期に、ようやくなってきたのかもしれない。

 ◇きむら・みつひこ=1951年生まれ。青山学院大教授。著書に『北朝鮮経済史』。

 中公新書 800円

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22915 0 書評 2018/05/28 05:22:00 2018/05/28 05:22:00 『日本統治下の朝鮮』(14日、本社で)=吉川綾美撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180521-OYT8I50003-T.jpg?type=thumbnail

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