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評・岸本佐知子(翻訳家)

『きげんのいいリス』 トーン・テレヘン著

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『きげんのいいリス』(3日)=飯島啓太撮影
『きげんのいいリス』(3日)=飯島啓太撮影

伸びやかな動物たち

 登場人物がすべて人語を話す動物と聞いて、最初はちょっと身構えた。もしかして、アリとキリギリスみたいな教訓的寓話ぐうわ? でも全然ちがった。もっとずっと伸びやかで自由な、物語そのものの楽しみに満ちた本だった。

 一度でいいから「え」てみたかったカメは、一年ぶんの声をめこみ、ある日ついに吠えてみる。他の動物たちはびっくり仰天、だがカメは目をきらきらさせて「ほんとうにすごい吠え声だったなあ」と満足する。ゾウがハリネズミに手紙を書く。でも「く」しか書けないので、ハリネズミには誰からの手紙かわからない。蚊が数秒で終わる短い誕生パーティを開く。誰も来なかったことに蚊は大いに満足し、でも次はもうちょっと長くしてみようかなと考える――。

 五十一の断章の中にはシュールでオチのない、膝カックンされたような奇妙な味わいのものが多い。だがそのぶん教訓や物語に落としこまれない不思議な滋味成分に満ちていて、いつまでも読んでいたくなる。

 一昨年翻訳された同じ作者の『ハリネズミの願い』は、孤独なハリネズミが誰かとつながりたくて、でもつながるのが怖い、その逡巡しゅんじゅんを描いて多くの読者の共感を得たが、それより二十年早く書かれた本書は、よりアナーキーで奔放な魅力にあふれている。

 いつも何かにぶつかっている不器用なゾウ、自分が変かどうかが気になるタコ、自分が何者なのか時々わからなくなるカメ、親友のリスにツンデレを仕掛けるアリなどなど、動物たちはみんな癖が強いのに一人残らず魅力的で、読んでいるうちに、だんだんと知っている誰彼の顔が重なってくる。そして読後は「ああ、どんな風だっていいんだな」と、何とも言えず解放された気分になる。変なやつも暗い奴も排除されずに生きられる、たしかにここは理想郷かもしれないけれど、決して手が届かないわけではない、そう思えてくるのだ。長山さき訳。

 ◇Toon Tellegen=1941年、オランダ生まれ。医師の傍ら、幼い娘のために動物の物語を書き始めたという。

 新潮社 1300円

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25644 0 書評 2018/06/18 05:28:00 2018/06/18 05:28:00 『きげんのいいリス』(3日)=飯島啓太撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180611-OYT8I50009-T.jpg?type=thumbnail

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