『ファーストラヴ』 島本理生著

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 ある夏の日、就職試験を終えたその足で父親を刺殺した女子大生・聖山環菜ひじりやまかんなが逮捕された。臨床心理士の真壁由紀は、事件を題材とした本の執筆のため「動機は自分でも分からないから見つけてほしい」と語る環菜や周辺人物の調査を始める。その過程で明らかになる、環菜の心が通ってきた数々の景色と言葉たち。それらを追体験するうち、由紀は、蓋をしたはずの自らの過去を振り返らざるを得なくなる。つかめたと思えば指の間をすり抜けるように、次々と形を変えていく登場人物たちの心。独特の緊張感がページめくる手を休ませない。

 著者の小説を読むと、人の心は複雑な立体物なのだと痛感させられる。著者の文章は常に、心の裏側にまで届くよう、かすかなひだにも分け入れるよう、その先端が細くとがっていると感じる。特に今作はそんな緻密ちみつな表現と、複数の主題(環菜の事件、由紀の過去)の同時進行によるリーダビリティが両立している印象を受けた。特に、楽団のごとく様々な感情を鳴らす心たちを率いたのち、指揮者よろしくきゅっと指を畳むかのような最後の一行。あまりに鮮烈だ。

 文芸春秋 1600円

無断転載禁止
26552 0 書評 2018/06/25 05:21:00 2018/06/25 05:21:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180618-OYT8I50012-T.jpg?type=thumbnail

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