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『江戸の骨は語る』 篠田謙一著

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「江戸の骨は語る」書評用(2日)=西孝高撮影
「江戸の骨は語る」書評用(2日)=西孝高撮影

DNAで被葬者を特定

 DNAの研究分野とITは、20世紀後半に始まった巨大な技術革新で、現在もっとも激しい技術開発競争の焦点となっている。どちらも目に見えない技術だけに、一般の人の理解が難しい領域である。DNAは生命や人類の歴史に対する認識を覆し、ITは世界の仕組みを変えてしまう技術である。

 2014年に東京・小日向の切支丹屋敷跡で三体の人骨が発掘された。同屋敷は江戸時代中期に禁教下の日本に上陸して捕らえられ、新井白石に尋問を受け、その記録(『西洋紀聞』)が後の蘭学ブームをもたらしたことで知られる宣教師ジョヴァンニ・シドッチが没した場所だ。三体の人骨のうち一体は、シドッチだと想定されていたが、確証を得るために、DNA分析が行われることになった。その記録が本書である。

 ヒトのミトコンドリアDNAは、共通の母親を持つそれぞれの地域に特有のグループに分けることができる。出土人骨の奥歯から抽出したミトコンドリアDNAを解析し、うち一体が、現在のヨーロッパ人特有のタイプと判明した。さらに技術革新が続く核ゲノムの解析手法によって、イタリア・トスカーナ地方のグループに絞り込むことができた。骨の主がイタリア出身のシドッチであることを確証するものだ。

 21世紀に入ってからゲノムDNAの技術開発の速度は加速している。ホモ・サピエンス(現生人類)とネアンデルタール人(旧人)との間に交雑があったという検証も、従来の理解をまったく覆すものである。

 著者は<基礎学問は危機的な状況にある>として、これを打開するには、<科学も文化の一部であり、われわれの社会を豊かにする営みであるということをわかってもらう、研究者サイドの一層の努力が必要だ>と主張する。篤実な研究者による、重い指摘である。DNAやITが、金もうけの手段としか見られないとしたら、日本の将来を失わせるだけである。

 ◇しのだ・けんいち=1955年生まれ。国立科学博物館副館長兼人類研究部長。専門は分子人類学。

 岩波書店 1500円

無断転載・複製を禁じます
31889 0 書評 2018/07/16 05:26:00 2018/07/16 05:26:00 「江戸の骨は語る」書評用(2日)=西孝高撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180709-OYT8I50030-T.jpg?type=thumbnail

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