評・服部文祥(登山家・作家)

『星夜航行 上・下』 飯嶋和一著

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「星夜航行」上下(23日、社内で)=萩本朋子撮影
「星夜航行」上下(23日、社内で)=萩本朋子撮影

文禄・慶長の役を劇的に

 徳川家康の長男、信康の小姓としてそばに仕えた沢瀬甚五郎は、幼い頃から才覚を見込まれ、馬術や銃術、剣術を教え込まれる。ところが信康に家康への謀反の疑いがかかり主君は切腹。ともに葬られる寸前で出奔した甚五郎は、縁あって呂宋ルソン助左衛門と知り合い、海商人となって国際感覚と船乗り気質を身につけていく。

 本能寺の変で信長が死に、かわりに天下人となった秀吉が朝鮮へと目を向ける。薩摩で商人をしていた甚五郎はそれに巻き込まれるように博多に商売の拠点を移す。

 本能寺から関ヶ原が、時代小説で盛んに取り上げられ、劇的に語られる一方で、あまり題材にならない文禄・慶長の役が本書の中心舞台である。小西行長、博多商人らは、なんとか海外侵攻を回避しようと画策するが、すべてが裏目に出て開戦へ。秀吉の野望は、東アジア全体を揺るがす戦役へと拡大していく。

 朝鮮と冊封関係にあった明国は大軍を派遣するが士気が上がらない。朝鮮は派閥争いの内紛。加藤清正はじめ武闘派の武将は戦国時代に鳴らした戦上手を発揮して、瞬く間に朝鮮半島を北上。朝鮮水軍の将、李舜臣は一人気を吐いて秀吉軍の脅威となる。フィリピンを植民地とするスペイン、宣教を目指す各会派のキリスト教宣教師の思惑。史料をヒントに壮大な物語を構築する著者の技は本書でもえ渡る。

 拡大した戦線に秀吉軍の兵站へいたんは追いつかない。そして独自の情報網、嗅覚で情勢を見極めていた甚五郎に兵糧入れの命が下った……。

 秀吉軍、朝鮮軍、明軍が入り乱れ、休戦を挟んで戦乱は足掛け7年続き、後方支援も含めれば3国をあわせた動員数は軽く100万人を越える。これに比べればもはや関ヶ原は小競り合いに見える。

 歴史に名を残す武将も、甚五郎も、まったく無名の幾万の人々も、この時代を生きた。そんな彼らの血が我々現代人にも流れている。

 ◇いいじま・かずいち=1952年、山形県生まれ。『狗賓童子の島』で司馬遼太郎賞。著書に『出星前夜』など。

 新潮社 各2000円

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34823 0 書評 2018/08/06 05:25:00 2018/08/06 05:25:00 「星夜航行」上下(23日、社内で)=萩本朋子撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180730-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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