評・本郷恵子(中世史学者・東京大教授)

『武士の日本史』 高橋昌明著

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「武士の日本史」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影
「武士の日本史」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影

時代により異なる実像

 「武士」といえば、チョンマゲをつけて刀を差し、華麗な殺陣で悪いやつをやっつけるのが時代劇の定番である。ただし最近の時代劇は言葉遣いも現代風だし、小顔でほっそりした俳優にあわせて髪形や着付けもだいぶアレンジが加えられている。

 「武士」は、早くは8世紀初めの史料に登場しており、武芸を磨きながら、徐々に存在感を高めてきた。12世紀には平家が政権の中枢にい込み、源平の内乱を経て源頼朝が鎌倉幕府を草創する。以来、明治維新にいたるまで武士は政治を主導してきたのである。

 著者は、武士の成立や武家政権の嚆矢こうしである平家政権についての研究を牽引けんいんしてきた。本書では武士のあらゆる側面をとりあげ、近現代も含めた通時代的な検討を行っている。

 それぞれの時代や社会における武士の実態は、今日我々が抱くイメージとはかけ離れている点も多い。たとえば、武器と戦闘を論じる章では、鎌倉時代の馬が実はポニー並みの体格で、大河ドラマなどでサラブレッドが疾駆する合戦シーンとは、だいぶ異なった戦いが行われたことが示される。貧弱な馬格で重装備の武士を乗せるためには、気性の荒い暴れ馬が珍重された。牧畜が未発達な日本では、家畜を去勢する習慣がなく、明治時代の陸軍においても、猛獣のような軍馬の扱いに苦慮していたという。

 また、日本人の精神史を考える時に、いわゆる「武士道」の影響を無視することはできない。今日のさまざまな組織に潜むブラックな部分も、「武士道」として語られてきた精神主義と、どこかでつながっているだろう。だが武士が一貫して従っていた倫理や規範があるわけではなく、とくに近代以降の「武士道」は、軍人を武士になぞらえ、忠君愛国に献身させるために喧伝けんでんされたものであった。

 本書によって歴史的文脈における武士の実像と虚像を知り、「武」の本質について考えてみたい。

 ◇たかはし・まさあき=1945年生まれ。神戸大名誉教授。著書に『武士の成立 武士像の創出』など。

 岩波新書 880円

37601 0 書評 2018/08/27 05:24:00 2018/08/27 05:24:00 「武士の日本史」(13日、東京都千代田区で)=高橋美帆撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180820-OYT8I50013-T.jpg?type=thumbnail

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