評・朝井リョウ(作家)

『送り火』 高橋弘希著

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 青竹のごとくしなやかに伸びゆく四肢を生命力のまま振り回す少年たち、小さな田舎町に満つ豊潤な自然の数々、土着の言葉や独特の風習が醸し出す古き良き故郷の香り。中学三年生の転校生・歩の目に映る世界は名作映画の舞台のよう。ただ、同級生たちが積み重ねてきた歩の知らない幾つかの過去、中心人物である晃が求めているらしき快楽の正体等があらわになるにつれ、薄氷の上を爪先で歩くような緊張感が芽生えていく。最後に満を持して扉を開ける、その土地に連綿と受け継がれている異様な暴力世界。具体的な名称で説明されるのに全てを明快には想像させてくれない地獄を前に、衝撃を受けるどころか、この大崩壊をどこか心待ちにしていた気さえするのが不思議だった。

 更に不思議なのは、凄惨せいさんな描写を経て読後に思い返されるのが、文章の美しさである点だ。頭の中にある世界を言葉で活写したいという、書き手として根源的な欲望に根を張った作品だけが生み出せる強度を前にすると、「暴力はいけない」なんて倫理的な感想は顔を出す余地もない。すべもなく読まされる一作だ。(文芸春秋、1400円)

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37596 0 書評 2018/08/27 05:22:00 2018/08/27 05:22:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180820-OYT8I50041-T.jpg?type=thumbnail

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