『仏像と日本人』 碧海寿広著
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博物館や美術館で開催される仏像をテーマとする特別展が人気を集めている。近年では、ガラスケースで覆わず、360度から見ることができるなど、展示の方法にも工夫が凝らされ、新しい発見の喜びを与えてくれる。
だが、見物人にぐるりと囲まれたり、しげしげと細部を検討されたりするとは、仏さまも仏師も予想していなかったにちがいない。もともと仏像とは、うす暗いお堂の奥に鎮座して、人々の祈りや願いを受けとめるものだ。
本書は、観光としての古寺めぐりや、仏像を美術品として鑑賞することが、いつから始まり、どのように展開していったのかを、近代日本における文化財保護・近代的教養の形成との関わりの中であきらかにしていく。和辻哲郎『古寺巡礼』や土門拳の写真など、人々を仏像へと導き、一時代を画した作品についての分析も興味深い。
観光立国を掲げる政策によって、文化財は保護の対象から、活用されるべき観光資源へと転換を迫られている。文化財の今日的意義について考えるためにも、本書はさまざまな示唆を与えてくれるだろう。
中公新書、860円