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評・森 健(ジャーナリスト)

『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』 河合香織著

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「選べなかった命」(10日、本社で)=武藤要撮影
「選べなかった命」(10日、本社で)=武藤要撮影

障害をめぐる心の揺れ

 2013年5月、北海道に住む夫婦がある医師と医院を相手に計1000万円の損害賠償を求める訴訟を函館地方裁判所に起こした。妊娠中、羊水検査をしたが、医師は検査結果を間違えて伝えた。出産すると、子はダウン症で、合併症で苦しんだ末、3ヶ月半でなくなった。

 訴訟は異例だった。夫婦だけではなく、亡くなった子の精神的苦痛も訴えていたからだ。生まれなければ死の苦痛を味わわずにすんだと原告夫妻は主張していたのだった。生まれてきたこと自体が誤りだったのかとの議論も起きた。

 この裁判から著者が投げかけたのは、何をもって命を選別できるのかという重い問いだ。現行の母体保護法では建前上、母体の身体的理由か経済的理由にのみ認められており、胎児の障害や病気を理由には認められていない。つまり、出生前診断で障害の可能性がわかっただけでは中絶はできないのである。その狭間はざまに著者はこの裁判の本質を捉えた。

 会ってみると、母親の思いは複雑だった。診断結果の間違いではなく、なくなった子の苦痛に力点を置いたのは「中絶を決断していた思いと実在する我が子への思いは居場所が違う」という気持ちがあったためだ。筆致は丁寧で、その場の表情や空気が伝わるように描かれる。コーヒーにも手をつけずに話し込む母親の言葉は、短い報道では伝わらない心の揺れがある。

 著者は取材を広げていく。医師が羊水検査を実施せず、ダウン症の子を産んだことで1995年に医師を訴えた京都の母親、業務として日常的に中絶に接している医師や助産師、優生保護法のもと強制不妊手術を受けた女性……。当事者たちの言葉は正論を超えた切実さがある。

 障害の有無を知ること、障害とわかって産み育てること、そして、命を選ぶということ。読者は読みながら、考えずにはいられないだろう。5年の取材で描かれた本書は命の意義を深いところから問うている。

 ◇かわい・かおり=ノンフィクション作家。2009年『ウスケボーイズ』で小学館ノンフィクション大賞受賞。

 文芸春秋 1700円

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41493 0 書評 2018/09/24 05:28:00 2018/09/24 05:28:00 「選べなかった命」(10日、本社で)=武藤要撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180918-OYT8I50032-T.jpg?type=thumbnail

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