『鏡の背面』 篠田節子著

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書評(14日午後8時2分、本社で)=守谷遼平撮影
書評(14日午後8時2分、本社で)=守谷遼平撮影

人は生き直せるか

 新アグネス寮は、DVや薬物、性暴力被害などにより社会からはじき出された女性たちが暮らすシェルターだ。ある日、絶対的な人望の厚さを誇るリーダー・小野尚子なおこが火災により死亡する。寮に残っていた女性と子どもを助け死ぬという彼女らしい最期に関係者全員が胸を打たれる中、警察が告げたのは小野尚子として死んだ遺体は別人だという衝撃の事実だった。社長令嬢として莫大ばくだいな遺産を持ちながら、いつだって住民たちに寄り添い、時にフィリピンのスラム街へボランティアに赴いていた“聖母”こと小野尚子はいつしか別人と入れ替わっていたのだ。過去に小野尚子を取材したライター・知佳は、指導者を失いトラブルが続出する寮のスタッフ・優紀と共に真相を探り始める。

 あらゆる男から金を搾り取り生き延び、最終的に自身であやめた他人に成り済ました二代目「小野尚子」が実在すれば、作中に登場する男性記者・長島によるルポと同様に稀代きだいの毒婦として扱われるだろう。ただ、全編を通して描かれる、女性としてこの世界で生きていく上で被り得る事態の数々に触れると、物事を一面的に捉えることの危険性に震える。女性として問題なく自活している知佳、寮に身を寄せざるを得なかった優紀、男性の長島。それぞれの視点が存在することで、一面的な理解で済ませかけていた様々な出来事の実体が続々と浮かび上がる。その現象が、男性である長島の視点によっても発生する点がまたフェアである。

 終盤、金銭目的で周辺人物を手に掛け続けていた二代目「小野尚子」が、成り済まし後も小野尚子の遺産を持ち逃げることなく寮に添い遂げる道を選んだ理由に焦点が当たる。人格が変貌へんぼうした可能性をどこか否定的に語る長島に対し、優紀がこぼした「私は人は生き直すことができる、と信じたいです」という台詞セリフが印象的だった。悲しい物語だが、その言葉に作者の人間への願いのようなものがともっている気がした。

 ◇しのだ・せつこ=1955年生まれ。97年『女たちのジハード』で直木賞、2009年『仮想儀礼』で柴田錬三郎賞。

 集英社 2000円

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42162 0 書評 2018/10/01 05:28:00 2018/10/01 05:28:00 書評(14日午後8時2分、本社で)=守谷遼平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20180925-OYT8I50035-T.jpg?type=thumbnail

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