評・鈴木幸一(インターネットイニシアティブ会長CEO)

『アフター・ヨーロッパ』 イワン・クラステフ著

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アフター・ヨーロッパ
アフター・ヨーロッパ

EUは生き残れるか

 欧州における極右の台頭、そして「米国優先」という偏狭な政策を掲げるトランプ大統領の存在は、欧米社会を根底から危うくする「革命」と言ってもいい。リベラリズム、民主主義、寛容といった欧米が基盤とする「概念」はポピュリズムによって危機にひんしている。本書は、ポピュリズムが台頭した背景を解くとともに、アフター・ヨーロッパ(今後の欧州)について、ブルガリア出身で、学生時代にソ連崩壊を経験した著者が思いを巡らせた一冊である。

 欧州のポピュリズム台頭の原因は、何よりも押し寄せる大量の難民であり、EUの緊縮財政策である。リベラリズムと寛容を象徴した難民条約の精神は失われ、人口動態的には移民を必要とするはずの東欧諸国さえバリケードを構築し、一切の受け入れを拒否する対応を明確にした。著者はこうした「無慈悲で偏狭な精神状態」が、「欧州内部の周辺に位置するリベラルな民主主義国家の瓦解」をもたらすかもしれないと予測する。欧州ではもはや「欧州合衆国」という考えが、心に響かないものになっており、キリスト教と啓蒙けいもう主義の遺産というアイデンティティも危機にひんしている、というのである。

 著者がいま一つポピュリストの特徴として指摘するのは、彼らが難民と同様に「特権的地位にいる少数者」とみなす、EU官僚ら能力主義的エリートへの不信任である。この現象は、トランプ政権、わが国でも同じように思われる。

 著者は、EUが生き残るためには、「(ポピュリストを)打倒しようとするのではなく、彼らの一部の政策、および、彼らの姿勢の一部さえも採用しながら、彼らを疲弊させようとすべき」と説き、たびたびの分裂の危機を乗り越えたハプスブルク帝国の歴史を理解することを薦めている。「生き残るということは、詩を書くことに少し似ている。詩人でさえも、詩がどのように終わるのか、終わってみるまでわからない」とは、本書を閉じる一節である。庄司克宏監訳。

 ◇Ivan Krastev=1965年生まれ。ソフィア・リベラル戦略センター理事長、ウィーン・人間科学研究所フェロー。

 岩波書店 1900円

無断転載禁止
42785 0 書評 2018/10/08 05:25:00 2018/10/08 05:25:00 アフター・ヨーロッパ https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181001-OYT8I50004-T.jpg?type=thumbnail

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