評・森健(ジャーナリスト)

『ハムレットと海賊』 小野俊太郎著

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ハムレットと海賊
ハムレットと海賊

名作が映す時代背景

 人生の流転を上質の悲喜劇で描いたシェイクスピアはいまなお英文学の代表である。だが、彼の作品群がどのような背景で記されたか知る人はどれだけいるだろうか。

 本書はシェイクスピアの作品を歴史や社会的背景などから読み解いた評論である。一連の作品がつづられたのは16世紀から17世紀。大航海時代の後半という海賊が跋扈ばっこする時代であり、英国は海洋国家へと変貌へんぼうするさなかでもあった。著者はそんな時代背景に注目する。

 たとえば『ハムレット』。叔父に父を殺され、母も奪われたデンマーク王子があだを打ち、自らも倒れる悲劇だ。本作で王子の人生は海上で海賊に出会って以降変化したと著者は指摘。海賊は本来、無法者の存在だが、ここでは「情けを知った義賊のように」扱われる。そう描かれるのも無理はなく、当時の海賊はスペインやポルトガルの船を略奪することで英国に富をもたらす「女王陛下の海賊」という存在でもあった。

 ヴェニスの軍人で、不貞を疑って妻を殺した後、自分も自死する悲劇『オセロ』。この作品では異人種間結婚などをテーマとし、東地中海世界を舞台としているが、その背景には西地中海世界におけるスペイン帝国への関心があったと指摘する。また、歴史劇『リチャード二世』で描かれるアイルランド遠征は、当時のイングランド人には時事的な話題でもあった。

 作品を読んでなくても問題ない。取り上げる作品は筋も追った上で背景の解説がある。だが、なにより本書でおもしろいのは、著者の博識さと柔軟な視点だ。シェイクスピア作品を扱いながら、近年の映画や文学との関連に言及したり、ブレグジット(英国のEU離脱)など現代の問題につながる視点もある。学術的な考察に終わっておらず、広がりがあり、読書の楽しみがある。歴史、地理、政治、そして文化と複合的な構成要素から読み解くと、シェイクスピアの本当の面白さが伝わってくる。

 ◇おの・しゅんたろう=1959年札幌市生まれ。文芸・文化評論家。著書に『「東京物語」と日本人』など。

 松柏社 2200円

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42804 0 書評 2018/10/08 05:28:00 2018/10/08 05:28:00 ハムレットと海賊 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181001-OYT8I50006-T.jpg?type=thumbnail

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