評・宮下志朗(仏文学者・放送大客員教授)

『インヴィジブル』 ポール・オースター著

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「インヴィジブル」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影
「インヴィジブル」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影

「見えない」書き手の物語

 『ムーン・パレス』同様、ニューヨークのコロンビア大学の学生を主人公にした、凝った仕掛けの小説。物語の「今」は二〇〇八年だが、一九六七年と行き来しながら、語られていく。

 物語の仕切り役である作家の「僕」のもとに、「有望」で「文壇に地歩を築く運命」だったが、果たさず、病気で死にかけているウォーカーから、回想録『一九六七年』の第一部「春」が送られてくる。それがI章で、「一九六七年の春、私は彼と初めて握手した」と始まる。「私」はウォーカー、「彼」とは怪しい大学教授のボルンで、殺人を犯した可能性もある。

 2章には、二人称による「夏」が挿入される。そこで告白されるウォーカーと姉グウィンとの「おぞましい」性愛、その手法は村上春樹を想起させる。「僕」はウォーカーに会いに行くが、彼はすでに亡く、残された三人称のメモを「編集者的に」介入して書き直した「秋」が、3章に収められる。複雑で入り組んだ構成だ。

 回想録の真偽が気になる「僕」だが、4章では、「弟と寝たことはない」「願望よ」とグウィンに否定される。スタイリッシュな語り口が見事で、終わりの「日記」にも意表を突かれた。もう一度ページを繰ることは必定の「不可視のインヴィジブル」小説。「僕」を介して提示される「私=ウォーカー」の赤裸々な青春、その真実はどこにあるのか?

 オースターは、父親を描いた「見えない人間の肖像」(『孤独の発明』)以来、「インヴィジブル」に固執している。彼は、フランスの思索者ジュベール(一八二四年没)の断章的な遺稿の英訳者だが、その序文「見えないインヴィジブルジュベール」は、「影のように生きて、死んで、死後も知られざる作家がいる」と起筆される。E・ディキンソン、カフカから始まり、ラルフ・エリソン『見えない人間』、マンデリシュターム等が挙げられていた。オースターは、「インヴィジブル」な書き手と作品とを新たに「発明」したことになる。柴田元幸訳。

 ◇Paul Auster=1947年生まれ。「ニューヨーク三部作」などで、現代アメリカ文学を代表する作家。

 新潮社 2100円

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48930 0 書評 2018/11/19 05:28:00 2018/11/19 05:28:00 「インヴィジブル」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181112-OYT8I50002-T.jpg?type=thumbnail

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