評・服部文祥(登山家・作家)

『Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち』 辛島デイヴィッド著

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「Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影
「Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影

「春樹」から「ハルキ」へ

 日本国内の英語学習者のために英訳された村上春樹の初期作品が、ニューヨークの編集者の目に留まっていた。そして日本での『ノルウェイの森』の大ヒット。これらを足がかりに、ニューヨークにある講談社インターナショナルでは、『羊をめぐる冒険』でアメリカに打って出るマーケティングが開始される。

 日本文学というアカデミックな扱いではなく、村上春樹をハルキ・ムラカミという同時代を生きる作家として英語圏に売り込むのである。

 ただアメリカで日本の文学作品を出版するには、いくつものハードルがあった。受け入れられるためには本質を生かしたまま作品を再構成する大胆な翻訳、翻案、編集カットが必要だ。その光景を翻訳家や編集者の語りや生き様を通して浮き彫りにしているのが本書のキモである。『ねじまき鳥クロニクル』で世界的な作家として地位を得るまでは、山あり谷あり。レイモンド・カーヴァーをめぐる縁から、老舗雑誌の『ニューヨーカー』や大手出版社の名物編集者、有力エージェントと邂逅かいこうする過程はちょっとしたドラマである。

 春樹がハルキになっていく裏事情は日本の読者としてなんだか誇らしい。村上に直接インタビューして得た返答を、随所にちりばめているのもファンにはたまらない。関係者間の記憶に齟齬そごがあるのは、春樹作品のパラレルワールドそのままである。

 エンタメ的スピード感と文学的奥深さを合わせ持ち、文字表現の妙、既視感の中に潜む寂寥せきりょうなど、非日本的なところが村上作品の重要な魅力であれば、英語圏の読者が村上を発見していくさまは必然ともいえる。だがその過程にはたくさんの人と才能が関わっていた。

 カーヴァーの短編をもじったタイトルにあるように、ハルキ・ムラカミを読むということは、作品を英語圏に受け入れられるように奔走した人々を「読む」ことでもある。

 ◇からしま・デイヴィッド=1979年、東京都生まれ。作家、翻訳家。早稲田大准教授。日本文学の英訳に携わる。

 みすず書房 3200円

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48966 0 書評 2018/11/19 05:27:00 2018/11/19 05:27:00 「Haruki Murakamiを読んでいるときに我々が読んでいる者たち」(2日、東京都千代田区で)=横山就平撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20181112-OYT8I50003-T.jpg?type=thumbnail

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