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評・篠田英朗(国際政治学者・東京外国語大教授)

『国際法』 大沼保昭著

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「国際法」 大沼保昭 (21日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影
「国際法」 大沼保昭 (21日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影

今こそ必要な理解

 昨年10月に逝去した国際法の大家が、病床で書き上げた渾身こんしんの遺稿である。国際法の全般的な知識を、新書で一般読者に提供する意欲作だ。時宜を得た歓迎すべき書でもある。

 元徴用工判決などもあり、最近、国際法という言葉を聞く機会が増えた。しかし、依然として多くの日本人にとって、国際法はなじみが薄いものだろう。国内で活躍する法律家の間ですら、国際法の理解が十分ではない場合がある。今後は、本書の国際法の説明が、様々な議論の基準となることが期待される。

 教科書のように整理された体系で、国際法の基本構造が示されていく。ただし四百ページにわたって、稀代きだいの国際法学者が真剣勝負の言葉を投げかけ続けてくる濃密な書物だ。国際法に慣れていない者は、いささか読了するのがしんどいかもしれない。だが本書は、この機会に努力するに値する信頼できる書だ。

 時事的な関心を持って読むこともできる。日韓基本条約や日韓請求権協定の解釈が、日韓の間で異なることが、国際的「法の支配」と国内的「法の支配」の間の「時に解決不能と思われる問題を惹起じゃっきする」、といった深い洞察も多々ある。

 また、随所に著者らしい記述も見える。欧米中心主義的に形成されてきた国際法の歴史に対する、強い問題意識は、健在だ。しかし著者は、その問題意識を通じて、むしろ日本人の国際法に対する覚醒を促す。

 日本は、明治維新後、国際法の吸収と実践を国是とし、模範的な行動をとるために多大な努力を払った。ところが大国化した後、国際社会を主導することができず、むしろ欧米諸国への不信感を高めて、国際法を軽視し、孤立して、破綻していった。

 「国際社会に通用しない議論は独善であり、国を誤らせる」。国際法は、決して日本と無関係なものではない。「限界を抱えた法」であるとしても、国際法は「日本国民にとってこそ賭けるに値するものである」。著者の訴えが、胸に響く。

 ◇おおぬま・やすあき=1946~2018年。国際法学者。著書に『「慰安婦」問題とは何だったのか』など。

 ちくま新書 1100円 

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59975 0 書評 2019/01/14 05:23:00 2019/01/14 05:23:00 「国際法」 大沼保昭 (21日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/01/20190107-OYT8I50006-T.jpg?type=thumbnail

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