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語り継ぐいのちの俳句 高野ムツオ著

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朔出版 1800円
朔出版 1800円

大災害を「写実」する

 評・宮部みゆき(作家)

 昨年、著者の高野ムツオさんとお話しする機会に恵まれた際、俳句のスタートは「写実」であり、目指すゴールもまた「写実」だという言葉を聞かせていただいた。見たまま、聴いたまま、感じたままを十七文字で表す俳句の世界はシンプルでいて奥深く、思い立ったら誰でもすぐに創作を始めることができる身近な文芸である。しかし、その「見て聴いて感じる」日常が、未曽有の大災害によって破壊されてしまったときにはどうすればいい? 俳人は何を見て何を聴き、何を心のどころにして詠句し得るのだろうか。

 本書には、「二百メートル手前まで津波が来た」宮城県在住の高野さんが東日本大震災後の日常を詠んだ「震災詠一〇〇句」の自解を中心に、あの震災に直面した多くの詠み人たちの作品が紹介されている。胸を突かれ、心に残る句を挙げていけばきりがない。

 春の海髪一本も見つからぬ

 瓦礫がれきがれきあまりに白し夏の雲

 開くたび墓標が見える揚花火

 津波より残りし島の芽吹かな

 俳句はもともと、「時や場を共有している限られた人々の、限られた時空で成立してきた」。そして「肩書も財もない庶民の詩であった」。それゆえに、この大災害のなかからも多くの言葉を抽出し得たのである。

 震災当日は仙台駅にいた高野さんは、自宅まで約十三キロの道程を歩いて帰る間にこんな句を詠んだ。

 地震の闇百足むかでとなりて歩むべし

 「俳句を作ることで不安を振り払っていた」けれど、津波に押し流されひっくり返った何台もの車を見たら、「頭から俳句はすっかり吹っ飛んでいました」。それでも、この句はその夜の暗さと恐ろしさを封じ込めたまま毅然きぜんとしてここにある。

 豊かな四季と自然の美に恵まれ、だからこそと言うにはあまりにもつらいほど自然災害の多い我が国に、世界でもっとも短い詩形が広く愛好されていることの意味をみしめながらページを繰った。

 ◇たかの・むつお=1947年宮城県生まれ。俳人。2014年、句集『萬の翅』で読売文学賞、蛇笏賞などを受賞。

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420188 0 書評 2019/02/03 05:00:00 2019/04/02 16:49:53 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190202-OYT8I50049-T.jpg?type=thumbnail

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