「日本の伝統」という幻想 藤井青銅著 柏書房 1500円
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誰が、なんのために?
評・加藤 徹 中国文化学者・明治大教授
痛快な本だ。著者は作家で、数年前から落語家の柳家
著者が示す「伝統ビジネス」のノウハウは、日本文化論としても秀逸である。
日本人は「旧国名」に弱い。「讃岐うどん」も「伊勢うどん」も、実は戦後に誕生した名称だ。これがもし「香川うどん」や「三重うどん」だったら? 「江戸」マジックや「京都ブランド」の威力も絶大だ。近現代に誕生した新しい事物も「京都」に事寄せると、伝統感を出せる。明治に誕生した「都をどり」も「平安神宮」もしかり。日本人は「京都に
日本古来の伝統なのだから変えるな、従え、絶やすな、古来のしきたりを守れ、という主張もよく耳にする。伝統の権威をかさにきて自分の言うことを相手にきかせることを、著者は「伝統マウンティング」と呼ぶ。
「相撲は国技」なので「土俵上は女人禁制」と主張する人もいる。実は、相撲の「国技」化は20世紀からだ。女性が土俵にのぼる女相撲の興行も昭和30年代まで続いた。近年、海洋散骨や、貸金庫のような納骨堂が増えている。「先祖代々之墓」を守れという声もある。実は、庶民の先祖代々の墓の伝統は百年ていどだ。
「古来の伝統」は変えてもいい。事実を知った上で、楽しめばいい。「日本はすごい」と自己アピールする風潮が強い昨今、本書のように「その伝統は、誰が、なんのために、どういうスタンスで主張しているのか?」と裏を読む「伝統リテラシー」をもつことは大事であろう。












