「日本の伝統」という幻想 藤井青銅著 柏書房 1500円

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◇ふじい・せいどう=作家、脚本家、放送作家。著書に『「日本の伝統」の正体』『ラジオな日々』など。
◇ふじい・せいどう=作家、脚本家、放送作家。著書に『「日本の伝統」の正体』『ラジオな日々』など。

誰が、なんのために?

 評・加藤 徹 中国文化学者・明治大教授

 痛快な本だ。著者は作家で、数年前から落語家の柳家花緑かろく氏に新作落語を提供している。落語界のしきたりを少し知っているだけで企業から一目おかれる、という経験もした。そんな著者が、現代日本の「伝統」の正体と日本人の精神構造を、軽妙洒脱しゃだつな筆致で斬りまくる。

 著者が示す「伝統ビジネス」のノウハウは、日本文化論としても秀逸である。

 日本人は「旧国名」に弱い。「讃岐うどん」も「伊勢うどん」も、実は戦後に誕生した名称だ。これがもし「香川うどん」や「三重うどん」だったら? 「江戸」マジックや「京都ブランド」の威力も絶大だ。近現代に誕生した新しい事物も「京都」に事寄せると、伝統感を出せる。明治に誕生した「都をどり」も「平安神宮」もしかり。日本人は「京都にだまされたい」と思い、京都も街ぐるみで「上手に騙してあげよう」と応える。「おこしやす」と京都弁で客を迎える店のバイトが九州出身だったり、舞妓まいこさんの出身地は全国各地だったりする。

 日本古来の伝統なのだから変えるな、従え、絶やすな、古来のしきたりを守れ、という主張もよく耳にする。伝統の権威をかさにきて自分の言うことを相手にきかせることを、著者は「伝統マウンティング」と呼ぶ。

 「相撲は国技」なので「土俵上は女人禁制」と主張する人もいる。実は、相撲の「国技」化は20世紀からだ。女性が土俵にのぼる女相撲の興行も昭和30年代まで続いた。近年、海洋散骨や、貸金庫のような納骨堂が増えている。「先祖代々之墓」を守れという声もある。実は、庶民の先祖代々の墓の伝統は百年ていどだ。

 「古来の伝統」は変えてもいい。事実を知った上で、楽しめばいい。「日本はすごい」と自己アピールする風潮が強い昨今、本書のように「その伝統は、誰が、なんのために、どういうスタンスで主張しているのか?」と裏を読む「伝統リテラシー」をもつことは大事であろう。

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420191 0 書評 2019/02/03 05:00:00 2019/04/02 16:49:54 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190202-OYT8I50050-T.jpg?type=thumbnail

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