ニムロッド 上田岳弘著 講談社 1500円

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◇うえだ・たかひろ=1979年、兵庫県生まれ。作家。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『塔と重力』など。
◇うえだ・たかひろ=1979年、兵庫県生まれ。作家。著書に『太陽・惑星』『私の恋人』『塔と重力』など。

モデルはビットコイン

 評・坂井豊貴 経済学者・慶応大教授

 ビットコインは、いまも正体不明の人物サトシ・ナカモトが創造した、新しい電子通貨システムである。第160回芥川賞に決まった本作は、ビットコインを題材としながら、ビットコインのありようを複層的に表現する。たとえばそれは登場人物らの関係として、あるいはそれは小説の構造として。

 主人公の名は中本哲史(ナカモトサトシ)。電子空間でビットコインの送金情報を記録して、報酬を得るマイニングという事業に携わっている。中本には、離婚歴がある恋人、紀子がいる。彼女は金融機関に勤めている。中本はよく紀子に友人「ニムロッド」の話をする。ニムロッドとは荷室という男のあだ名だ。

 荷室はサトシ・ナカモトを主人公とする小説を執筆している。荷室はその小説世界の創造主として、正体不明のサトシの姿に重なる。一方の中本は電子空間でビットコインの記録付けをしている。紀子はリアルな資本主義の世界で、巨額の投資に携わっている。これら異世界の三者を重ね合わせると、通貨の発行者、運営者、使用者たちによる一つの分散的な生態系が浮かび上がる。

 登場人物の人間関係は一対一で、皆が一堂に会すことはない。たとえば紀子と荷室は会ったことがない。また紀子は、たまに中本に前夫の話をするが、中本と前夫は会ったことがない。一対一の口伝えで情報は移転される。サトシ・ナカモトはビットコインを「一対一(ピア・トゥ・ピア)」の電子通貨だと説明したが、そのありようが彼らの人間関係に投射されている。

 物語は荷室が記す「駄目な飛行機コレクション」を転調の合図として展開する。合図から合図までを一まとまりの記録と見るならば、本書はそれらを束ねた記録帳(ブロックチェーン)である。あらゆる記録は、それ自体ではただの文字列にすぎない。いかなる意味を見付けるかはすべて読み手に委ねられている。

無断転載禁止
420203 0 書評 2019/02/03 05:00:00 2019/02/12 09:57:56 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190202-OYT8I50054-T.jpg?type=thumbnail

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