隔たりと政治 重田園江著 青土社 2800円

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◇おもだ・そのえ=1968年生まれ。明治大教授(現代思想・政治思想史)。著書に、『統治の抗争史』など。
◇おもだ・そのえ=1968年生まれ。明治大教授(現代思想・政治思想史)。著書に、『統治の抗争史』など。

リスクを抱え、つながる…評・苅部 直 政治学者 東京大教授

 確定申告の時期が近づいてきた。給与の源泉徴収票を見つめて、本来の支給額から天引きされている社会保険料の多さにため息をつき、何でこんなに払わなくてはいけないのかと思う人は多いだろう。さらに、払った額にふさわしい年金が老後に返ってくるかどうかを心配する人や、自分の払った保険料が、医療費を多く使う他人にたくさん支出されるのは不当だと憤る人も。

 社会保障の制度とはそもそもそういうものではなかった。政治思想史研究の現場から、重田園江はそう説き明かす。十九世紀のフランスでは、それは多かれ少なかれリスクを抱えながら生きる人間どうしがつながり、連帯しあう社会関係の構想に基づいて導入されたものだったのである。それは個人が利益を確保しようとして競争する、市場のモデルと対極にあるものと考えられていた。

 しかし、政治という視点から考えるかぎり、連帯のユートピアを夢みるところで話は終わらない。重田が哲学者のミシェル・フーコーによる議論を引きながら指摘するように、市場における自由競争もまた、国家が人々を秩序づける「統治性」の構成要素として作り出された。貧しい人々との連帯の理想が、全体主義の恐ろしい暴力につながった歴史も、ハンナ・アーレントが描きだしたところである。

 ではどうすればいいのか。絶対的な善と悪、全能と無力の中間にいる存在としての人間が、対立し競争するかたわら、約束を結びあい共存してゆく道を探ること。重田はそうした政治学の原点に立ち戻って考え直そうとする。

 扱う話題は現代の貧困と社会の分断にとどまらず、治安政策や大学論など幅ひろい。考察の材料にとりあげるのも、政治思想の古典や現代正義論の名著、映画『タクシードライバー』やスタジオジブリのアニメとさまざまである。ニュースの断片的な報道や解説に満足できず、深く考えたい人に、ぜひおすすめしたい。

無断転載禁止
438080 0 書評 2019/02/10 05:00:00 2019/04/02 16:43:42 書評用「隔たりと政治」(1日、社内で)=今野絵里撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190209-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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