前立腺歌日記 四元康祐著…講談社 1850円

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詩人の矜持とユーモア…評・通崎睦美(木琴奏者)

◇よつもと・やすひろ=1959年生まれ。詩人。詩集に『世界中年会議』『噤(つぐ)みの午後』『日本語の虜囚』など。
◇よつもと・やすひろ=1959年生まれ。詩人。詩集に『世界中年会議』『噤(つぐ)みの午後』『日本語の虜囚』など。

 前立腺がんを患ったドイツ・ミュンヘン在住の詩人による私小説。診断から手術、リハビリセンターでの生活を経て放射線治療を終えるまで、約1年の日々がつづられる。前立腺とは、男性にだけある生殖器の一つ。前立腺癌は、進行が緩やかな場合が多い癌だが、著者はまだ50代であったこと、また家族の罹患りかん歴から前立腺切除手術を選択した。

 この本を読んでいると、オンナである私にもおちんちんがついているような錯覚に襲われる。しかしそれは、おてんばだった幼稚園の頃に欲しかったソレではなく、かなしいかな<火であぶられて焦げたかのように黒ずんで、浮腫むくんでいる>ものだ。癌である以上、生死に関わることに違いはないが、手術が終われば<シモの形而下けいじか的現象>と向き合うことになる。リハビリ施設の講義時間に、著者が「自ら刺激を与えて反応を観察しても術後の回復に差し支えないか」と尋ねた際、ハンガリー人のスザッボ先生が力強くうなずき、仲間たちが励ましに満ちた目を向けるシーンなど思わず笑いがこみ上げた。

 読み進めているうちに、ふと時空を超えるかのような感覚を覚える。長年ドイツに暮らす著者がの地の病院で治療を受けていることに加え、自作と共に万葉集、和泉式部、夏目漱石、中原中也、谷川俊太郎、ダンテ、リルケ、マックス・シュレーダー等、古今東西にわたる詩や散文が自在に挿入されているからだろう。

 前立腺そのものが、よく知られた臓器とはいえない。詩人の矜持きょうじとユーモアを兼ね備えたこの闘病記が、文芸愛好者の枠を超えて広く読まれ、前立腺癌の認知度向上へ貢献することにも期待したい。最後に、へそ下三寸にある前立腺を切除した著者による一ぺん

 臍下三寸ほどに/空がある/鳥影はない/雲の端がほつれもつれて

 あかく/染まっている/とうに滅び去った/星々のひしめく音が聞こえる

無断転載禁止
458790 0 書評 2019/02/24 05:00:00 2019/04/02 16:33:11 前立腺歌日記(15日、東京都千代田区で)=三浦邦彦撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190223-OYT8I50055-T.jpg?type=thumbnail

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