小林一三 日本が生んだ偉大なる経営イノベーター 鹿島茂著 中央公論新社 2000円

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◇かしま・しげる=1949年生まれ。明治大教授。2000年に『職業別パリ風俗』で読売文学賞を受賞。
◇かしま・しげる=1949年生まれ。明治大教授。2000年に『職業別パリ風俗』で読売文学賞を受賞。

人口学の観点で再検討

 評・本郷恵子 中世史学者・東京大教授

 小林一三が実業家として最初に手がけたのは、阪急電鉄の前身となる箕面有馬みのおありま電気軌道である。明治43年(1910年)の開通を前に小林は『住宅地御案内』というパンフレットを発行した。近代に入って急激に人口が増加し、住環境・衛生環境が悪化した大阪の都市生活を逃れて、「田園趣味に富める楽しき郊外生活」に入るよう勧め、「最も適当なる場所に三十余万坪の土地を所有し、自由に諸君の選択にまかし得」るのは当社だけだと説いた。

 小林は箕面有馬電気軌道の計画ルート周辺の格安・優良な土地に着目し、分譲地を開発し、住宅ローンを設定した。新興のサラリーマン家庭に健全な住まいを提供すれば、彼らが乗客となって鉄道事業を支えてくれるというわけだ。さらに沿線に付加価値をつけるために、箕面動物園・宝塚新温泉を開業した。後者は宝塚少女歌劇に発展し、今日まで続いている。

 小林一三の伝記は多いが、本書の著者鹿島茂氏は、人口学的観点から小林の業績を再検討することに、新たな意義を見出みいだした。小林の活動期は、まさにわが国の若年人口が増加の一途をたどる最も良い時期にあたっていた。小林の方法を反転させれば、現代の少産少死の人口減少段階を打開する指針が見えてくるはずだという。「人口はすべてを決める」、これが本書のキーワードである。

 小林は、デパート・映画・ホテル・野球など多彩な事業を手がけたが、全体を貫くのは、清く正しく美しく、家族そろって楽しめる朗らかな施設というポリシーだった。商業理念を介して理想社会を実現せんとする小林の思想を論じて、著者の筆はまことに軽快、名言を連発し成功を生む経営者の足跡にぴたりと伴走する。

 昭和31年、東宝の年忘れパーティでの小林の最後の演説。「今年はお骨折をどうもありがとう。これからもしっかりやって下さい」。先人のねぎらいと激励は、私たちの心にもみてくる。

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470793 0 書評 2019/03/03 05:00:00 2019/04/02 16:26:58 鹿島茂著 「日本が生んだ偉大なる経営イノベーター 小林一三」 中央公論新社 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190302-OYT8I50047-T.jpg?type=thumbnail

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