科学立国の危機…豊田長康著 東洋経済新報社 2600円

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人的資源の確保不可欠

 評・三中信宏(進化生物学者)

◇とよだ・ながやす=鈴鹿医療科学大学長。三重大学長、国立大学財務・経営センター理事長などを歴任。
◇とよだ・ながやす=鈴鹿医療科学大学長。三重大学長、国立大学財務・経営センター理事長などを歴任。

 著者は以前から自身のブログ<ある医療系大学長のつぼやき>を通じて、日本の科学の行く末には暗雲が垂れこめていることを数々のデータを踏まえて力説してきた。その延長線上に出版された本書は膨大な関連証拠の分析をふまえ、日本の科学研究を支える経済的および人的基盤が諸外国と比べてありえないほど無残に切り崩されてきた現状を読者に突きつける。ときどき報道される大学の世界ランキングはもちろん、出版された科学論文数とその影響力から見ても、日本の科学研究力は欧米や中国は言うまでもなく、近隣アジア諸国にさえ追い抜かれている。

 わが国の科学が直面する深刻な現実と科学者たちの怨嗟えんさの声がぎっしり詰めこまれた本書は、500ページ超という厚さにもかかわらず、読む者をきつけて離さない。法人化以降、大学への運営費交付金が年1%の定率で削減された影響は、教員数の削減や研究時間の減少となって現れた。同時に、過度の「選択と集中」方針が徹底されたことにより大学間の格差がさらに広がった。しかし、イノベーションの広がりにとっては、裾野に位置する中小大学への積極的支援が必要だと著者は言う。

 科学研究を実際に遂行する時間割合によって換算した人的資源すなわち「研究従事者数」を確保して国際研究力を上げるためには「ヒトとヒマへの公的な投資が不可欠」と明言する。そのためには、設備費だけでなく人件費を適切に充当しないことにはらちが明かない。こんな自明な理屈が現代の日本では不思議なことにまったく通らない。実現不可能なスローガンを連呼するのではなく、しっかりした証拠に基づく地に足の着いた政策決定が日本の科学の将来にとって不可欠であると著者は言う。

 本書に含まれる200枚あまりの統計データ解析図表は著者の主張を支える論拠となっている。本書は、当の科学者はもちろんのこと、科学を支える政策立案者にとっても貴重な情報源となるにちがいない。

無断転載禁止
479903 0 書評 2019/03/10 05:00:00 2019/04/02 16:23:07 [書評] 「科学立国の危機 失速する日本の研究力」豊田長康(4日、東京都千代田区で)=若杉和希撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/03/20190309-OYT8I50040-T.jpg?type=thumbnail

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