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「奇跡の艦」で見たもの
評・本郷恵子 中世史学者・東京大教授
昭和16年(1941年)、帝国海軍は中長期的な視点に立って、優秀な少年に特別な教育を施し、将来の中堅幹部を養成するために「海軍特別年少兵」制度を創設した。対象年齢は14歳以上16歳未満で、第一期から第四期まで、約1万7000名が採用された。だが戦局の悪化により、教育期間は短縮され、とくに第一期生と二期生は消耗品のように第一線に投入されて、多くが命を失った。本来の趣旨から外れてしまった制度は海軍内でもあまり知られることなく、そのまま歴史に埋もれてしまったのである。
本書の主人公である西崎信夫氏は、昭和2年生まれ。三重県志摩郡鵜方村の農家の、9人兄弟の末っ子だった。昭和6年の満州事変以来、日中戦争・太平洋戦争と、氏の幼少期は戦争に覆われている。11歳の時に父を亡くし、母が苦労する姿を見て育った少年は、家族を守るために一日も早く軍人になりたいと考え、15歳で「海軍特別年少兵」第一期生となった。
1年弱の教育課程を終え、横須賀の海軍水雷学校で学んだ後、昭和18年11月末に海軍上等水兵として駆逐艦「雪風」に乗り込んだ。昭和15年に
全体を貫く臨場感はただごとではない。10代の少年の骨肉に刻まれた記憶は、あまりにも鮮明で