「雪風」に乗った少年…西崎信夫著、小川万海子編 藤原書店 2700円

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◇にしざき・のぶお=元駆逐艦「雪風」魚雷発射管射手。現在は平和祈念展示資料館で語り部を務める。
◇にしざき・のぶお=元駆逐艦「雪風」魚雷発射管射手。現在は平和祈念展示資料館で語り部を務める。

「奇跡の艦」で見たもの

 評・本郷恵子 中世史学者・東京大教授

 昭和16年(1941年)、帝国海軍は中長期的な視点に立って、優秀な少年に特別な教育を施し、将来の中堅幹部を養成するために「海軍特別年少兵」制度を創設した。対象年齢は14歳以上16歳未満で、第一期から第四期まで、約1万7000名が採用された。だが戦局の悪化により、教育期間は短縮され、とくに第一期生と二期生は消耗品のように第一線に投入されて、多くが命を失った。本来の趣旨から外れてしまった制度は海軍内でもあまり知られることなく、そのまま歴史に埋もれてしまったのである。

 本書の主人公である西崎信夫氏は、昭和2年生まれ。三重県志摩郡鵜方村の農家の、9人兄弟の末っ子だった。昭和6年の満州事変以来、日中戦争・太平洋戦争と、氏の幼少期は戦争に覆われている。11歳の時に父を亡くし、母が苦労する姿を見て育った少年は、家族を守るために一日も早く軍人になりたいと考え、15歳で「海軍特別年少兵」第一期生となった。

 1年弱の教育課程を終え、横須賀の海軍水雷学校で学んだ後、昭和18年11月末に海軍上等水兵として駆逐艦「雪風」に乗り込んだ。昭和15年に竣工しゅんこうした「雪風」は、太平洋戦争中の主要海戦に参加しながら、同型駆逐艦38隻のなかで、唯一終戦まで大きな損傷を受けることなく生き残った「奇跡の駆逐艦」である。以後西崎氏は、「雪風」と運命をともにし、極限の経験を重ねる。戦艦「武蔵」「大和」および空母「信濃」の最期を目の当たりにし、人間魚雷「回天」の試験発射訓練に立ち会った。沖縄水上特攻では、射手が戦死した機銃台に急遽きゅうきょ配置され、「落ち着け、今まで何人も殺してきたではないか」と自分に言い聞かせ、恐怖が殺意にかわる瞬間を体験する。

 全体を貫く臨場感はただごとではない。10代の少年の骨肉に刻まれた記憶は、あまりにも鮮明で凄惨せいさんで理不尽だ。本書には忘れられないことと忘れてはいけないことが詰まっている。

無断転載禁止
536516 0 書評 2019/04/14 05:00:00 2019/04/22 11:30:32 「雪風」に乗った少年 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190413-OYT8I50048-T.jpg?type=thumbnail

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