肖像彫刻家…篠田節子著 新潮社 1700円 

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

◇しのだ・せつこ=1955年生まれ。著書に『女たちのジハード』『仮想儀礼』『インドクリスタル』ほか。
◇しのだ・せつこ=1955年生まれ。著書に『女たちのジハード』『仮想儀礼』『インドクリスタル』ほか。

確かな技が生む創造力

 評・通崎睦美(木琴奏者)
校庭にたたずむ「二宮尊徳像」、ロダンの名作、あるいは、高僧の像まで。本書に触れた読者は、妙に肖像彫刻が気になり始めるに違いない。

 この小説の主人公高山正道は、私立美術大学をトップで卒業後それなりの評価を得るも、うだつが上がらず妻と息子に逃げられる。失意の中、先輩に誘われイタリアで修業。ローマン彫刻の確かな技術を身につけたが、ここでも芸術家として身を立てるには至らず、8年を経て帰国した。そして、学んだ最高の技術をかして肖像彫刻家として独立し、注文仕事に徹する。

 素晴らしい肖像彫刻家は、自ら我を出さずともリアリズムの中に自然と作家性を浮かび上がらせる。像の中で作家の魂や念が渦巻くからだ。正道はそれほどの天才ではないが、技術を駆使し誠心誠意、姿を写す人物に寄り添う。結果、銅像には作家ではなく、モデルとなった人物の魂が宿る隙を与えてしまう。

 意思を持つ銅像が一種の狂言回しとなって繰り広げるストーリーは、スリリングつユーモラス。勝ち気ながら性根のよい姉。農村に借りたアトリエ兼住居の大家夫婦。彼らは正道に、大なり小なりの援助をするのだが、作品については全く理解していない。全編通じて顔を出す好意の数々が時に理不尽と化すのはなんとも切ないが、かえってそこに人情味を感じる。合わせて、制作上のパートナー、美大の同級生元妻、イタリアで成功した先輩。彫刻制作の「技術」を知る彼らの在りようを読むうちに、「真の理解者」とは、と考えさせられる。

 正道は最後に<注文仕事だって、売るための作品だって、創造力は発揮できる>という。芸術の世界に生きることは諦めたかもしれないが、その心は捨てておらず、私はほっとする。今後銅像が黙ってしまうなら、それは正道が今の境遇に甘んじ、創造力を失った時か、「真の芸術家」に昇華した時だろう。奇奇怪怪な出来事を楽しみ、さわやかな気分で読み終えた。

無断転載・複製を禁じます
558644 0 書評 2019/04/28 05:00:00 2019/05/08 14:23:00 肖像彫刻家 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/04/20190427-OYT8I50025-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

アクセスランキング

新着クーポン

NEW
参考画像
ランチでご来店のお客様にジェラートをサービス
NEW
参考画像
600円300円
NEW
参考画像
アクティビティご利用でソフトドリンク1本サービス
NEW
参考画像
ご宿泊のお客様の夕食時に地酒(お銚子)またはソフトドリンク1本サービス

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
YOMIURI BRAND STUDIO
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ